日本気象予報士会活動 リレー随筆
 
リレー随筆2


早春の風景
木邨 弘 (大阪府)
 

 気象予報士会といういわば内輪のホームページであっても、インターネットという手段を使えば、不特定多数の人たちに読まれるかもしれないと思うと、パソコンのキィを打つ手が心なしか重く感じられる。しかし、一歩引いて考えて見ると、気象の専門家集団であれば、このコラムの読み手も自ずと限られてくるであろうと勝手に想像し、業界用語も気にせず大っぴらに使って一人よがりに書きすすめていきたいと思う。といっても、私自身それほど広く深い知識があるはずもなく、今まで生きてきた人生から、あるいは長年気象業務に携わってきて得た経験や印象に残っている事柄を少しでも多くの人たちと共有できればいいかなと思っている。さらに、これから種々の現象に遭遇し、いろいろな経験を積み重ねていくであろう若い予報士さんたちにその意が伝われば幸甚である。なんだか担当幹事の前書きのようになってしまったが本題に入る。

 西洋の高緯度地方では、年間を通じて太陽活動が最も弱くなる冬至を年の初めに喩えられ、今も伝統的な行事が各国で残っていると聞く。冬至の翌日から太陽活動は日増しに活発となって来るのを知っていたからであろう。農耕が中心の中国や日本等の東洋では、農作業の基の日となる立春を年の初めに喩えられてきた。立春は二十四節気の一つであるが、この日を基準に八十八夜も二百十日も数えられていく。皆さんはすでに体感的に気づいていることと思うが、1月の中旬から目に見えて日足が長くなり出した。それもそのはずで、例えば大阪では昼間の時間が最も短い12月中旬は9時間40分であったが、2月上旬には10時間35分。約1時間も日が長くなっていた。

 2月は「光の春」とも呼ばれる。外は底冷えして気温は上がらず、風はまだまだ冷たいが、日の光だけは冬至の頃に比べると、はるかに力強い。室内から外を眺めていたり日溜まりなどにいると、おやっと思うほど暖かく感じることがある。このような瞬間をとらえて先人は「光の春」と表現したのであろう。大気に光が溢れ大地が暖まる予感を抱かせてくれる瞬間でもある。また、この時期から梅の花の開花が報告されてくる。近畿各地の気象官署での平年の開花日は、彦根2月12日、大阪、奈良、和歌山同13日、京都同21日、神戸同26日などとなっており、気温の高低とは必ずしも一致していないように思える。梅にウグイスはつきものだが、ウグイスの初鳴き日の観測など動物季節観測が出来にくい環境となってしまったため、観測不能という所もあるが、近畿の気象官署での観測は、奈良2月28日、彦根3月1日、京都3月4日、神戸3月12日、和歌山3月15日などとなっており、梅の開花と約1カ月ずれているようだ。大阪は残念ながら、観測不能ということで平年日はとれていない。しかし、気象台からほど近い大阪城公園の茂みで地鳴きしているウグイスに出会ったことがあるので、運が良ければホーホケキョの鳴き声を聞く事が出来るかも知れない。

大阪城公園の梅林
大阪城公園には80種類500本の梅があり、早春に咲き競う

 立春を過ぎて初めて吹く暖かい南よりの強風のことを春一番と呼んでいる。気象庁では春一番の定義を決めている。立春から春分までの間に南より風が8メートル以上吹き、最高気温が前日よりかなり高くなった場合を言う。語感から、春の到来を意識させるが、反面、海難、雪崩、フェーン現象による大火等の災害を引き起こすことがある。かつて、西日本の漁師さんたちが防災的に呼んでいた言葉が、語感の良さから、都会の人間が春を心待ちにする言葉となってしまったようだ。異常とも思える陽気の後、日本列島は大陸から張り出す冷たい高気圧に覆われ、寒さが戻ってくる。これを「寒の戻り」と言う。これからしばらく三寒四温を繰り返しながら本当の春を待つ。春二番、春三番と続いて、春本番となるのである。
 

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