日本気象予報士会活動 リレー随筆
 
リレー随筆3


ニジェールの気候 その1
武樋 憲明 (埼玉県)
 

 今年のダカールラリーでは増岡氏が惜しくも連続優勝を逃してしまった。25年前就職した会社の関係で赴任した先が当時パリ・ダカールラリーの最難関地点のニジェールという国であった。

 この国はアフリカ・サハラ砂漠の南側にあるステップ気候の内陸国であり、北緯15度、東経10度付近に位置し、夏の最高気温は50度、冬は最低が0度近くなる夏雨地帯に位置する。ニジェール中北部にアイールという山塊があり、北東貿易風の壁となり、その東側ではテネレ砂漠という砂丘が広がっている(この砂丘が当時のパリ・ダカールラリー最難関地点といわれていた)。私の赴任先であったアイール山塊の西側は、砂丘の発達しない砂漠である。

 ニジェールの気候は6月から9月の雨季と10月から5月の寒季からなる。夏季の雨は砂嵐とともにもたらされる。気温の上がった夏の午後、突然赤い砂の壁が砂漠のかなたから音もなく近づいてくる。砂嵐の中に入ると強風により砂漠の砂や石が巻き上げられ視界も限られ、車のフロントガラスが石礫により割れることもある。頭に当たったら大怪我。その 砂嵐がおさまりそうになったとき、大粒の雨とともに強烈な雷雨となる。30分から1時間の間集中豪雨が続き、突然ぴたりと止む。雨季の間はこの砂嵐に伴う雷雨が週2〜3回発生する。この地域では“ワジ”呼ばれる涸れ沢が発達している。夏の雷雨によりこの涸れ沢に突然鉄砲水が流れ、河床を渡っていた車が流され死傷者もでることがある。雨季の終わりころ大きなワジに行くと、利根川のように、とうとうたる流れとなっている。しかしながらこのワジを流れる水はあっという間に地下水となる。ニジェールのステップ地帯では地表は確かに乾燥し植生もまばらであるが、地下では雨季に降った雨が地下水層に浸透・拡散している。したがって乾燥した地表から井戸を掘り地下水層に達すると大量の真水が自噴する。

ニジェールの砂嵐(写真:筆者提供)
ニジェールの砂漠と砂嵐(写真:武樋憲明提供)

 私はステップ地帯でウランの鉱石を探す仕事に従事し、地表から100〜200メートルの調査井を掘削してきた。調査井を掘り続けるためには大量の水が必要となる。調査の開始に当たっては、調査井や生活用水を確保するために地下180メートルに達する水井戸を掘ることから始める。地下水層の分布さえわかっていればほぼ無限の水を得ることができた。そしてこの水は雨季の間の降水が地下水層に浸透・拡散したものである。

 なぜ雨季と乾季があるのか。また当時問題となっていた砂漠化という現象を考察してみる。この地域の気候をコントロールするポイントはNITC(北熱帯集束帯)の移動である。NITCは比較的低温で湿気を含む赤道西風帯と北東貿易風帯の収束線と定義される。赤道西風帯では湿気を含む比較的低温の大気からなるため、日射で上昇し雨を降らせる。毎年5月頃にNITCがニジェールに達し赤道西風帯に入る。これにより砂漠地帯での日射の影響で大規模な上昇気流が発生し、砂嵐と雷雨が発達することになる。NITCの夏の北限がニジェール付近となることから、年によりNITCが到達する年と到達しない年がある。もしもNITCが到達しないばあいには、ニジェールでは雨が降らず砂漠が南下することになる。NITCの年変動と砂漠化は密接に関係している。
 

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