<審議>
「東京支部規則改定の件」 |
渡辺保之 会員(東京支部事務局) |
先月の総会で、会名称が「日本気象予報士会」に変更になったのに伴い、東京支部規則の改定審議を行なう予定でしたが、東京支部登録会員の出席者と委任状提出者の合計が登録会員数の2分の1の31人に2人足りない29人に留まりました。このため審議をすることが出来ませんでした。 |
<報告1>
「『2004年課外授業ボランティア』について」 |
若林成士 会員(課外授業実行委員会委員長) |
現在東京支部などで進行中の「課外授業ボランティア」について、まとめ役をお願いしている若林成士さんに説明を頂きました。
2003年11月22日に中野区立桃園第三小学校で行なった授業をベースに、東京支部HPに掲載中の「生徒たちの質問」の充実や、その後に申し込みや問い合わせがあった千葉大学、王子第一小学校などへの対応を調整しているところで、参加者を広く募っていますので、関心のある会員はぜひご協力をお願いしたいと思います。 |
<話題提供1>
「高高度の謎の光を追う
〜高々度発光現象と雷雲との関係〜」 |
鈴木智幸さん(航空自衛隊気象業務隊) |
雷雲上空に落雷に伴って出現する謎の発光体。現象自体は
100年以上前から知られていながら、学問的な取り組みが始まったのは高々15年あまりという「高々度発光現象」について、気象学的なアプローチで観測・研究を行なっておられる航空自衛隊の鈴木さんにお話し頂きました。
1)高々度発光現象研究の歴史
高々度発光現象は、今から 100年以上前にToynbee and Mackenzie(1886)
が、科学誌「Nature」に雷雲上の発光現象として報告したが、その後、航空関係者などからの目撃証言はあったものの、確固たる証拠がないまま、いわば放置されていた。
しかし
約100年後の1989年7月6日、ミネソタ大のフランツなどが、超高層探査ロケットに搭載するための高感度ビデオカメラの感度調整を恒星を使って行なう作業中、偶然、雷雲から高々度へ向かう発光現象を撮影することに成功した。これを詳しく調べたところ、継続時間は撮影されたビデオ映像のコマ間隔から少なくとも16.7ミリ秒あり、発生位置は、雷活動の観測ネットワークなどから、観測点から
250km遠方の雷活動の上空で、雷雲頂部から上空に向かっていることなどが明らかになった。その後、この現象は「スプライト」と名付けられた。
2)高高度発光現象の概要
高高度発光現象には次のようなものがある(発表者が便宜上分類したもので、一般的にオーソライズされたものではない)。
●ブルージェット
・ブルースタータ
・ギガンテックジェット
●レッドスプライト
・スプライト・ハロー
●エルブス
2-1)ブルージェット(ブルースタータ・ギガンテックジェット)
ブルージェットは、対流コア付近上空で活発な落雷に伴って発生し、色は濃い青。形状は上に開いた円錐状をしている。
ブルースタータ ギガンテックジェット
進展速度 不 明 1000〜1200km/s
上端部高度 約25km 約100km
持続時間 極めて短時間 400〜650ミリ秒
2-2)レッドスプライト
レッドスプライトは、大電荷(
200クーロン程度)を中和する正極性落雷に伴って発生し、色は赤。形状はクラゲ、羽根飾り、にんじん、柱状等、多数あり、複雑な構造を持つ。高度40〜90kmを中心に発光し、水平のひろがりが10〜50kmに及ぶ。持続時間は数100ミリ秒である。
2-3)エルブス
非常に大きな電流値を持つ落雷(極性は問わない)によってスプライトに先行して発生する。高度約100km上空、ドーナツ状の円盤が水平方向に広がる形を持ち、雷放電により上空に励起された電磁パルスで発光すると考えられている。なお、この「エルブス」は、東北大の福西教授が世界で初めて発見した現象である。
3)高高度発光現象をもたらす雷雲
夏季雷では、高高度発光現象をもたらす雷雲はメソスケール(MCS)のもので、その1/10〜1/4 が発生領域となっている。
スプライトの発生機構としては、対地放電を繰り返すことで雷雲上部に負電荷が蓄積し、この負電荷が、正に帯電している電離層との間で放電する際、窒素分子を励起することで発光するというメカニズムが考えられている。
エルブスは、大電流の対地放電に伴う電磁パルスが上空に伝播することで引き起こされた発光であると考えられている。
4)冬季雷と高高度発光現象
日本では気象条件等の影響で、夏季雷に伴う高高度発光現象は観測されたことがない(夏季はスプライト発生地点までクリアな見通しの確保が困難)。そこで冬季雷について、いつ、どのようなエコー構造の雷雲がスプライトを発生させるのか、またその際の電荷構造及び電荷量はどのようになっているのかについて観測・解析を行なった。
4-1)解析データ
解析に使用したのは次のデータである。
●LiDASネットワークデータ
*Cバンドレーダー
・水平1km、鉛直0.5kmの分解能で200km四方の領域をカバー
*フィールドミル・ネットワーク
・5〜10km間隔で計27個設置された電界計
●衛星画像
・水平分解能5km
●フランクリン・ジャパン社の落雷位置データ
4-2)解析対象と気象状況
2000年から電通大が撮影しているスプライトの光学観測データから、LiDAS
ネットワーク内で発生した、スプライトと関連のある落雷を抽出した。Cバンドレーダー領域内イベントは約10例、さらにフィールドミル・ネットワーク領域内イベントは1例であった。この1例を対象にした(2001年12月14日22時19分)。
このときの気圧配置は、発達した低気圧がサハリン付近、中国東北部と華南に高気圧がある西高東低の冬型の気圧配置で、輪島の高層観測からは4500m付近に沈降性逆転層が形成されており、それ以下でほぼ湿潤となっている。
4-3)スプライトを伴った雷雲のエコー構造とライフサイクル
解析対象としたスプライトを伴った雷雲は、レーダーで見ると水平規模20km程度の比較的小さいエコーで、次のようなライフサイクルを持っていることが分かった。
1.小松の西海上約70kmで発生
2.陸上に近づくにつれて徐々に面積が広がる
3.雷雲エコーが上陸するとまもなく、スプライトを伴う落雷が発生
4.上陸すると急激に衰弱
5.雷雲セルの大きさは数十km四方程度
6.移動速度は東へ約60〜70km/h
鉛直構造で追跡しても、発生後10分後に最も高いエコー頂高度を記録した後、4km程度のエコー頂を保持したまま東進。エコー東端が海岸線に達した後、エコーが急速に衰弱に向かう時間帯と対応してスプライトが発生した。スプライト発生時の落雷位置は、エコーの強い領域の周辺で、近傍の電界計には強い正電荷が記録されていた。スプライトが発生した雷雲エコー周辺の雲頂は、−25℃より温度が高い部分であった。
5)質疑応答から
まだ未知の発光現象があるらしいという例として、雷活動が観測されていないのに発光現象が起きた事例が南米マラカイボ湖で観測されている。ここで紹介した以外の発光現象が存在することも考えられ、今後の観測や理論的検証が注目される。 |
<話題提供2>
「数値計算による独自の局地気象モデルへの
挑戦
〜計算力学を応用した気象データ解析に
関する週末研究〜」 |
高野哲夫 会員 |
以前住んでおられた山形県米沢市周辺の局地気象に関する研究を出発点として、独自の数値予報モデル構築に取り組んでいる高野哲夫さんに、これまでの研究と今後の展開の方向性などのついてお話頂きました。
1)山形県米沢市の厳冬期の局地気象特性
冬季の山形県では、天気予報で「冬型の気圧配置が強まるために県内全域で朝から吹雪くでしょう」という解説が良く聞かれるが、実際には朝方、一面澄み切った快晴の空、ということが何度もあった。そしてこのような日は、午後から天気が急変して荒れ始めることが多い。このような事例について考察を加えてみた。
まず、冬期間の山形県内のアメダス積算降水量の分布を調べてみた。すると、極大域が朝日連峰や飯豊連峰付近に見られる。北西季節風に乗ってきた対流雲は、脊梁山脈である奥羽山脈にぶつかる前に、この両連峰でブロックされていることが分かる。
次に、850hPa面の気温・風速と、米沢市の天気の関連を見てみた。前述の「はじめのうち快晴」になるのは上空の気温が比較的高く、風速が弱い時であると言えるようである。
以上を踏まえて概念モデルを考えた。これまで述べてきた、強い冬型の気圧配置時に起きる晴天現象に関しては「上空の北西季節風の強弱」が鍵になっているようである。すなわち、上空の北西季節風が強い場合は、地形性上昇気流で発生した対流雲を押し流す「推進力」が強く、内陸盆地である米沢市まで雲が達し雪を降らせるが、北西季節風が弱い場合、対流雲が内陸まで押し流されず、一時的に晴天となる、というものである。
(この晴天現象については質疑応答で、日本海からメソ低気圧が東進してくる際、一時的に南よりの風となることで生じるのではないかとのコメントがあった)
2)計算流体力学を応用したモデル
こうした局地気象の解析・予報のため、気象庁RSMプロダクトを基に、シンプルな手法で微細メッシュに細分化処理を行なう「3次元局地風解析モデル」の手法を検討し、実際に開発に取り組んでいる。
具体的目標として、特定の局地エリアに水平1kmメッシュを設定し、気象庁RSMプロダクトを初期値として与え、2日先まで計算を行なうことにしている。この計算は1台のパソコンで行なえるようになっている。なお、この力学モデルで出力される結果は、実際の値とは差異を生じているため、これを統計的に補正するガイダンスを開発することを考えている。
これまでに、このモデルを使った4つの領域(・沿岸地域の平野部 ・沿岸地域で少し起伏を含んだ地形のエリア ・更に起伏の激しいエリア ・内陸部の盆地状のエリア)での局地風解析を行なっているが、今後は力学モデルの出力結果と実際の観測結果を照合し、両者の相関を検証するとともに、統計モデルの開発を推進していくことになる。
3)気象情報の未来への展望
今後、気象情報ユーザから求められていくのは、局地レベルのきめ細かい予報ではないだろうか。局地の気象予測の精度を高めた上で、的確な応用ノウハウが構築できたとき、応用気象情報が活きてくるのではないか。
気象情報が「情報ツール」へと進化していくに当たって、気象予報士は「天気を予想・解説する専門家」から「気象情報を駆使して問題にアプローチする専門家」としての可能性が広がっていると考えている。
気象予測は精度の向上が必要不可欠であるが、その一方で応用分野に関する諸問題の解決のためには気象の専門知識だけでは不十分である。従って、ターゲットとなる分野の知識に関しても、深い理解を持つことが必要であり、それが個々の気象予報士の「コア・コンピタンス」になっていくのではないか、それを確立し、研究・研鑽を積むことが求められるのではないだろうか。 |
<話題提供3>
「日本気象予報士会・最近の動きから」 |
白石晶二さん(常任理事) |
新たなステージへ大きく動き出している日本気象予報士会の最近のトピックや、その舞台裏について、突然の指名にも関わらず、熱っぽくお話を頂きました。 |