2003年 東京支部会合 概要

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     2003年(H15)6月14日 第23回東京支部会合

<話題提供1>
「週間天気予報の技術基盤」

 高杉年且さん(気象庁予報課週間天気予報担当予報官)
 気象庁予報課で長年、週間天気予報を担当されている高杉さんにお越し頂き、週間天気予報の概略や予報技術、さらには検証まで、豊富な実例を盛り込んで頂きながらのお話を伺いました。以下は高杉さんの書き
下ろしである、講演資料「週間天気予報の技術基盤」からまとめたもので、表現等の要約の責任はすべて筆者にあることをお断りしておきます。


1)週間天気予報の背景----------------------------------------------------------------------------
 日本で観測される降水日は平均35〜40%で、年による変動はほとんどない。しかし地域、期間によって大きな変動を繰り返している。従って人々にとって数日〜1週間先までの天候は大きな関心事であり、こうした期間の天気予報への強い要望が、気象庁が毎日発表する週間天気予報の大きな動機になっている。


2)週間天気予報の発表----------------------------------------------------------------------------
2-1 全般週間天気予報
 *全国予報中枢である気象庁本庁が毎日発表
 *全国広範に影響が予想される高・低気圧や前線、天候の特徴、最高
  ・最低気温の経過を文章で表現
 *領域:北日本・東日本・西日本・南西諸島
 *期間:「前半・後半」の二分か、「期間の初め・中頃・終わり頃」の三分が通例

2-2 地方週間天気予報
 *地方予報中枢が担当
 *地方予報区内の特徴的な天候経過を平易な文章で表現
 *全般週間天気予報文から該当地方の記述を選択、編集し作成、平年比降水量の多寡を記述するのが通例
 *単独発表ルートはなく、府県週間天気予報の一部に平分のまま取り込んで発表

2-3 府県週間天気予報
 *56の府県予報区担当官署が1府県を対象に毎日発表(予報区は58)
 *向こう1週間の「天気・降水確率・最高最低気温・信頼度」を記述
 *予報要素を並べた一覧表と、地方週間天気予報全文の2つから構成
 *予報要素:天  気……短い字句にテロップ番号併記
       降水確率……0〜 100%の10%刻み
       最高最低気温……1℃単位
       信頼度………高い順にA・B・C


3)全般週間天気予報の作成------------------------------------------------------------------------
3-1 GSMの詳細図
 全球数値予報モデル(GSM)で、500hPa面高度と渦度の合成図及び850hPa面の温度と地上気圧場の合成図を、T=00から 192まで24時間毎に作成する。
 数値予報は、日替わりや他モデルとの大きな食い違いがない場合、その結果に基づいて予報を組み立てても支障ないレベルに達しているが、安定が悪く、他モデルとの差異が大きい時は、数値予報の採用できる部分、できない部分を明確に区別して解釈したり、別の筋書きを作成したりする必要性が生じてくる。これが全国予報中枢から地方予報中枢に向けて毎日送られる「全般週間指示報」の重要な役割である。

3-2 基本場の実況図と予想図
 実況図・予想図ともに、極中心の北半球域500hPa面高度の5日平均図で、実況図は T=-48〜48、予想図は T=96〜192の5日分を平均する。またいずれの図も、平均高度・平年偏差(期間中日の平年値との差)を重
ねて図示する。
 高層の平均高度と平年偏差は、基本場の実況とその推移を端的に表現している。ここでは「西谷・東谷・本邦谷」の概念が重要である。一方南北のトラフの位相が揃わない「逆位相場」では、高低気圧の動向見積もりが困難なことがある。
 平年偏差は暖気・寒気移流の目安になり一般的に「正偏差が高温場」「負偏差が低温場」に対応する。

3-3 気温偏差の時系列図
 850hPa気温の平年偏差の時系列変化図で、過去の実況15日分に、GSM予想8日分を図示する。北日本・東日本・西日本の代表3地点を選び最近3日間に発表されたガイダンスの値を加えて、その日替わり傾向を読み取る。850hPa気温の平年偏差は地上気温と良い相関があると言われている。

3-4 全般週間指示報
 気象庁本庁は数値予報の解釈を巡って、全国予報中枢としての統一見解を示すとともに、地方予報中枢を技術的に支援する責務を負う立場から、全般週間指示報を送付している。
 内 容 *全国天候経過を記述する全般週間天気予報の案文
     *基本場の実況と推移
     *数値予報資料またはアンサンブル予報資料の解釈上の注意事項及び修正事項
     *週間解説予想図(週間アンサンブル予想図)の補足事項
     *災害をもたらすような顕著な気象現象の継続が予想される時や、季節的な場の転換が予想される
      時は記述

3-5 週間解説予想図
 明後日(予報2日目)〜予報7日目の 12UTCの予想地上天気図。全国予報中枢の考え方を地方予報中枢に伝える手書き天気図で、基本場と矛盾しないように、また典型的な地上気圧場の型を意識して擬似的な等圧線と前線を描く。
 実況で台風が存在する時には台風予報を最優先し、週間天気予報はその結果を継承するが、公式には台風予報は72時間先までであることを考慮し、たとえGSMが期間の後半まで明瞭な示度と構造を持った台風を表現していても、台風の中心位置をぼかして広い低圧部とすることや、活発な暖湿流を想起させるような図柄にする。期間中に発生が予想される台風は原則として描かない。
 平成14年3月19日で手書き予想図は終了し、翌20日からはアンサンブル予報結果を機械作画した週間アンサンブル予想図に変わった。

3-6 週間アンサンブル予想図
 この図は、アンサンブル予報のセンター・クラスターを構成する6メンバーの地上気圧と降水量の平均値であり、平均的なおとなしい筋書きを集めたことに相当する。
 等圧線は4hPa ごとの気圧値を実線で連ねた正規のもので、前線に変わり降水量分布を描画する。これらは機械描画を一切修正していないが、高低気圧の中心位置を補う若干の手作業を加えて作成している。
 アンサンブル平均場は、期間後半はメンバー間の筋書きが揃わないため、気圧場の凹凸が平滑化された、メリハリに欠ける図になる傾向があるが、一方で後半の信頼性低下を反映しているという長所にもなっている。


4)地方・府県週間天気予報の作成------------------------------------------------------------------
4-1 週間ガイダンス
 週間天気予報ガイダンスは、府県週間天気予報を自動作成する際の参考データで、全国予報中枢から毎日送付されている。ガイダンスの解釈と翻訳は地方予報中枢の仕事で、要素は降水確率・曇天率・地域平均降水量・地点最高最低気温・日別信頼度である。
 地方予報中枢は、府県地方気象台向けの地方週間支援指示報で全予報要素を提供する。うち最高・最低気温についてはガイダンス修正値を指示し、府県地方気象台ではガイダンスの値に修正値を加えて発表予報を作成する。

4-2 GSM週間予報支援図
 GSM予想をまとめた集成図。
  *予報2〜7日目の500hPa面高度と850hPa気温の等値線
  *平均場として500hPa面の5日平均実況図と予想図
  *代表4地点の850hPa気温平年偏差の実況と予想の時系列変化図

4-3 アンサンブル週間予報支援図
 GSM週間予報支援図と同様にアンサンブル予報結果をまとめた集成図。
 センター・クラスターの6メンバー平均図として
  *予報2〜7日目の500hPa面高度と渦度
  *850hPa相当温位
 また全25メンバー平均図として
  *予報2〜7日目の500hPa面特定高度を表示したスパゲッティ・ダイヤグラム
    →25メンバーを5グループに分けたグループ平均
  *地上降水頻度分布
    →全メンバー数に対する降水予想メンバー数比
  *代表4地点の850hPa気温平年偏差の予想時系列変化図
    →5グループ別に全メンバー平均とGSM単独の予想値を重畳

4-4 地方週間支援指示報
 府県週間天気予報の予報要素を網羅した数値データ。ガイダンス値を全般週間指示報、地方週間指示報の解釈に即して修正し、予報作成システム上で処理する。

4-5 地方週間指示報
 府県地方気象台による部外への解説業務を支援するために地方予報中枢が作成する。解説業務に直接役立つよう、予報の組み立て方と予想される現象の見通しを述べる。


5)民間気象事業に対する技術支援------------------------------------------------------------------
 本庁は、民間気象事業支援を目的に、全般週間指示報から必要事項を抜粋した週間解説資料を送付している。


6)初期の予報技術--------------------------------------------------------------------------------
 発足初期の週間天気予報業務は、わずかな実況資料だけに立脚し、実況及びその変化傾向の持続延長と統計に基づく気候学的解釈が唯一の技術基盤であった。

6-1 トラフ・リッジ・ダイヤグラム
 主として500hPa付近の強風軸の蛇行に見られるトラフやリッジの位置を示した時間対経度断面図である。通常は一定範囲の緯度帯ごとに分けて作成する。
 この図を用いて、過去のトラフやリッジの移動を図上で外挿して今後を推定する。外挿は過去を単純に延長した単純外挿のほか、強風軸の相互作用による減速や加速、発達や衰弱の効果を見積もることもあった。現在は毎日の予報作業でこの種の図を作成することはないが、予報官がこれに類した観点から考察を進めているのも事実である。

6-2 基本場
 総観気象学的な基本場を把握するために通常、500hPa面高度の5日平均場が用いられていた。実況はこの図から把握可能だが、予報期間後半の予想は推定に頼らざるを得なかった。

6-3 ゾーナル・インデックス
 これは上空風の場の東西成分、または南北成分を一定の経度にわたって平均した値で、気象庁では東経100度〜西経170度まで、四半球の領域内での平均値とし、北緯20度〜60度まで緯度毎に求めた。通常は時間対緯度断面図で表す。
 *ゾーナル・インデックス小=南北の気団交換が活発
  ・冬期……寒気移流強
  ・梅雨期……オホーツク海のブロッキングH優勢で梅雨前線活発
 *ゾーナル・インデックス大=南北の気団交換が不活発
  ・高低気圧は順調に東進

 現在では数値予報が高低気圧の移動や発達過程を直接的に示しておりゾーナル・インデックスはその存在意義を失った。

6-4 類似検索
 実況やここ数日の天候経過に類似した過去の事例を検索して、その後の経過を判断する手法。


7)数値予報の利用--------------------------------------------------------------------------------
 現在の週間天気予報の技術基盤は、数値予報モデルの出力する各種資料と、ガイダンス等の副次的に生成される資料をいかに解釈するかにある。気象庁全球スペクトルモデル(GSM)のうち、12UTC 初期値のものが、予報時間を 216時間まで延長して、週間天気予報の8日先までの予報期間に応えている。また、平成14年3月20日からは、モデルのスペックを縮小する代わりに、メンバー数25のアンサンブル数値予報モデルの運用を開始している。

7-1 基本場
 既に述べたように5日平均の500hPa面高層天気図が予報期間内の基本場理解に役立つ。上空基本場の実況と期間後半の予想を比較して、例えば実況の基本場が期間中も持続するのか、あるいは期間内に大きな場の転換があるのかというような、大きな場の特徴を読み取る。
 数値予報が提起する上空の基本場の予想は、地上気圧系の予想に比べて比較的一貫性があり信頼できる。数値予報資料の解釈にあたっては、まず基本場の推移を把握し、その上で期間内の気圧系の動向が、基本場に矛盾なく予想されているかどうかを見る。解釈は、信頼度の高い資料から始めて、次第に信頼度の低い方に降りていくのが原則で、上空基本場のように現象規模の大きいものは特に信頼度が高いので、まずこれから始めるのである。

a)ゾーナル場=日本付近の平均的な流れに大きな蛇行がなく、ほぼ緯度線に沿って平行に流れる場
  *高低気圧は順調に東進
  *天候基調は好天と悪天が交互に入れ替わる周期変化型
  *冬から春にかけても寒気の南下が抑えられ、気温は高温基調

b)西谷場=上空トラフが大陸東岸で深まり、日本付近は南西流場
  *東進する低気圧は進路の北分が強く、急速に勢力を強める傾向
  *低気圧に伴う前線の南側下層では、南からの暖湿流が卓越
  *高気圧の経路も北偏するので、前線北側では冷湿気が絶えず供給
  *降水量が多くなり、悪天が持続しやすい場

c)東谷場=上空トラフが東海上で深まり、日本付近は北西流場
  *低気圧進路は南に押し下げられ、降水域の北上が抑えられるので晴天持続傾向
  *冬期は北西季節風が強く、冬型気圧配置が持続
  *夏期は東海上からの冷湿気が下層に留まり、局地的気団境界を形成し、思わぬ北東気流型の悪天になる
   ことも

d)本邦谷(日本谷)=上空トラフが日本付近で深まる形
  *天候基調は周期変化だが、流れが滞りがちで変化が緩やか
  *日本付近の高度低下のため、顕著な寒気移流が特徴
  *夏は激しい雷雨、冬は暴風雪をもたらすことがある

e)亜熱帯高気圧=サブトロピカル・ハイ=サブハイ
  *中心位置や張り出し具合は、夏の大気不安定の程度、初夏の梅雨前線の位置、台風の進路を支配する
   500hPa面の 5880gpm等高線が良い指標に

 基本場を見る場合に特に注意すべきこととして次のような例がある。ある時刻に東シナ海に上空の深いトラフがあり、見かけ上明瞭な西谷場となっている場合がある。この時、トラフが東進するにつれて次第に南に深まる傾向を示すなら、基本場は「西谷」ではなく「東谷」と見なければならない。なぜなら、前後の場を平均すれば、明らかに東に向かって流れが深まる形状を示すからである。ある時刻に南西流が卓越して、活発な暖気移流と低気圧の発達が見込まれたとしても、基本場が東谷であれば長続きしない。一時的な流れの場と基本場が異なる場合、よく見定める必要がある。

7-2 実況と短期予報
 実況の変化を見る上で、短期予報が提供する明日、明後日の天候経過は重要である。時として、短期予報が重視する領域スペクトルモデル(RSM)が、GSMにうまくつながらないことがある。こうした食い違いは、多くの場合、その後に続く予想の許容誤差の範囲内に吸収して解消可能だが、食い違いがあまりに大きい場合は、週間天気予報の筋書きを変更することも考えなければならない。

7-3 数値予報資料の解釈
 数値予報モデルがどこまで天気翻訳の直訳に耐えるかはケースバイケースでの判断となるが、ここ数日の初期値を通して筋書きに一貫性があり、外国モデルなど他の資料とも相性が良ければ、そのまま使えると見て良い。上空基本場とも矛盾がなければ、高低気圧の位相を若干修正するだけで使える。
 しかし、数値予報の筋書きに日々一貫性がなく、他の資料や基本場とも矛盾するならば、その解釈は予報官の力量に委ねざるを得ない。


8)アンサンブル数値予報の利用--------------------------------------------------------------------
8-1 メンバー・マップ
 数値予報資料の解釈は以下の観点で行う。
  a)ここ数日のモデルの筋書きが安定しているか、一貫性があるか
  b)モデルの筋書きが他のモデルや予測資料と矛盾しないか
  c)昨日の発表予報からの日替わりが大きくはないか
これらの要件は、アンサンブル予報の手法にも共通した姿勢でもある。

 気象庁が平成14年3月20日から運用を開始したアンサンブル予報モデルは、GSMの格子を半分に間引いた縮退モデルを25回実行して得られた25メンバーで構成される。
 全メンバーの平均場を求め、それに対する予想の差が小さいものから順に6メンバーを選んで、センター・クラスターという集団を作る。

 全メンバーを網羅して示すメンバー・マップは2種類
  ・予報対象日の25個の予想天気図を見せるもの
  ・特定メンバーの初期値〜予報7日目の時系列変化を見せるもの

8-2 スプレッドと信頼度
 メンバー間に見られる筋書きのばらつき程度がアンサンブル予報の信頼性の目安になる。これは全メンバー平均に対する2乗誤差または標準偏差を考える。ある予報変数や予報要素のばらつきの程度を示す値としてスプレッドを定義する。気象庁のアンサンブル予報では、予報2日目〜8日目の期間の2系統のスプレッドを考える。
 1)極東アジア域の500hPa面高度の値を用いるもの
   →アンサンブル予報全体のばらつき具合を代表
 2)日本付近を4領域に分けて算出した地上気圧の値を用いるもの
   →北日本・東日本・西日本・南西諸島の地域ごと

 2系統のスプレッドを算術平均し、ある線形変換公式を用いて信頼度指示値を算出する。週間天気予報の信頼度は、この指示値を3階級に区分して発表している。
  *信頼度A:予報期間前半の平均的なスプレッドと同程度
  *信頼度B:予報期間後半の平均的なスプレッドと同程度
  *信頼度C:予報期間後半の平均的なスプレッドより大きい

8-3 スパゲッティー・ダイヤグラム
 メンバー間の予想ばらつき具合は、特定等高線や等圧線を全メンバー分、天気図上に描いてみると直感的に分かりやすくなる。この種の図をその形状から「スパゲッティー・ダイヤグラム」と呼ぶ。
 この図からは、トラフやリッジの経度方向のずれ=位相のずれに起因するのか、緯度方向のずれ=発達程度の違いに起因するのかを見ることができる。仮に等高線の束のばらつきが一様であるならば、その中から説得力のあるメンバーを選び出すのは困難であることが分かる。また等高線がいくつかまとまって複数のグループを作っているように見える時は、いくつかの可能性のある筋書きから成り立っていることを示唆している。
 地方予報中枢や府県地方気象台に送付する週間アンサンブル予報支援図は、500hPa面の等高線のスパゲッティー・ダイヤグラムを掲載している。ただし全25メンバーではなく、選別された5グループの平均値を示している。支援図はさらに850hPa気温の平年偏差を5グループごとに時系列変化図で示している。

8-4 筋書きの決定
 アンサンブル予報それ自体には、筋書きを自ら絞り込んでいく機能はない。あくまで外部から、当面は予報官が手作業で行うほかない。
 メンバーの中で極端な予想を提唱してくるものがあれば、それを排除することをまず試みる。これがセンター・クラスターを採用する根拠である。これ以外の筋書きの絞り込みは、どんな方法にせよ、予報官の作為が介在することになる。


9)週間天気予報の技術水準------------------------------------------------------------------------
 では現在発表されている週間天気予報の技術は、どの程度の水準に達しているのか。気象庁は、予警報総合評価業務実施要領が定める客観的統計手法に則して、予報の成績を検証し、公表している。

<府県天気予報・府県週間天気予報の降水の有無の適中率>

          92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02年
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3〜7日目適中率  66 64 69 68 68 67 67 67 68 69 69%
 明日予報適中率  81 82 83 83 81 82 81 81 82 83 81%
   実況降水率  39 42 33 37 37 38 41 38 37 37 37%
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 降水の有無の適中率を見ると、この10年間、府県週間天気予報ではほとんど向上していない。実況降水率と比べると「足して105」 の関係が続いている(編注:もともと「雨あり」を適中させるのが最も難しい。実況の降水が多くなるとスコアは落ちる、逆に実況の降水が少なくなるとスコアは上がる。この和がほぼ一定という関係ができている)
 ここ2年間、適中率が1ポイント高くなっている。全国規模・年平均での1ポイント向上は大変なことで、この水準を今後も維持できるかどうかが注目される。
 府県短期予報では「足して120」 の関係が見い出されるが、若干の年々変動がある。

9-1 降水の有無
 アンサンブル予報導入前後での、降水有無予報の適中率は次の表の通り。

<降水の有無の年平均スコア・アンサンブル予報導入前後の比較>
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●導入前 2001年4月〜2002年3月
       3日目 4日目 5日目 6日目 7日目 3〜7日目
適中率     73.8  71.5  69.5  68.1  67.4   70.1
見逃し率    18.0  19.8  22.3  23.8  26.4   22.1
空振り率    8.1   8.6   8.3   8.1   6.2    7.9
実況降水率   34.9  34.9  34.8  35.0  35.1   35.0
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●導入後 2002年4月〜2003年3月
       3日目 4日目 5日目 6日目 7日目 3〜7日目
適中率     73.3  71.0  68.0  66.8  65.4   68.9
見逃し率    18.9  21.3  24.1  25.6  29.2   23.8
空振り率    7.8   7.8   7.9   7.6   5.4    7.3
実況降水率   37.1  37.2  37.4  37.3  37.2   37.2
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 予報期間を通して適中率の全国平均は約70%。予報3日目から7日目にかけて73%から65〜67%へと逓減する。これは1ヶ月を30日として、予報適中が21日、外れた日が9日あることになる。
 週間天気予報では「降水予報の空振り」よりも「降水実況の見逃し」に適中率低下の傾向が強く出ている。これは、週間天気予報が期間の終わり頃に「降水あり」とする予報を発表しない、つまり「雨を付けない」からである。
 アンサンブル予報導入の効果は、上記スコアを見る限り、目覚ましいものではない。予報に雨を付ける頻度は実況降水率をかなり下回っていることからすると、実情はもっと雨を付けても良い状況である。

 昨年度、実況では37%の頻度で降水があったが、予報に雨を付ける頻度は21%にとどまっており、しかもその 1/3は空振りであった。また、実況降水を事前に予想できていたのは37%に対して14%、つまり雨の2/3を見逃していることが分かる。言い換えると、週間天気予報が「降る」と発表したら 2/3は雨が降るが、今降っている雨は 1/3しか当てていない、ということになる。

 客観的予測手法である「降水確率ガイダンス」「アンサンブル予報センター・クラスターの降水域」「25メンバーの降水量頻度分布」があるが、これら客観予測は、いずれも発表予報のスコアを3ポイント程度下回っている。これまで雨を付けてこなかった7日目に、客観予測が雨を付けてきたら、発表予報にも雨を付けることを考えると、客観予測より2ポイントほど向上するが、発表予報には1ポイント及ばない。発表予報は客観予測を効果的に修正解釈していることが分かる。

9-2 最高気温・最低気温
 気温の予報についてのスコアを見ると、最高気温の成績が芳しくないことが分かる。予報2日目では 2.2℃であるが、7日目では3℃に達する。

9-3 降水確率
 確率予報の適中の定義は「確率pを予想したとき事後の生起確率が統計的にpである」となっており、検証スコアはブライア・スコアを使用する。
 アンサンブル予報導入の前後を比較すると、ガイダンスのブライア・スコアが大きく改善されたとはいえない。予報2日目〜7日目にかけて成績低下の割合が多少大きくなり、メリハリがついたが、期間平均では代わり映えがしない。一方で、発表予報のブライア・スコアは、ほとんど変化らしい変化はない。

<降水確率の年平均スコア・アンサンブル予報導入前後の比較>
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●導入前 2001年4月〜2002年3月
      2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 7日目 3〜7日目
発表予報   0.17  0.19  0.20  0.21  0.21  0.22   0.20
ガイダンス  0.20  0.20  0.20 0.21  0.22  0.22   0.21
----------------------------------------------------------------
●導入後 2002年4月〜2003年3月
      2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 7日目 3〜7日目
発表予報   0.17  0.19  0.20  0.21  0.22  0.22   0.20
ガイダンス  0.19  0.19  0.21 0.22  0.23  0.23   0.21
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9-4 信頼度と降水の有無の適中率
 アンサンブル予報への転換にあたっての大きな変化は、日々の予報に日別信頼度を付加したことである。信頼度そのものを検証する方法はないが、信頼度の違いが、いくつかの重要な検証スコアに確かな違いとなって表れているかどうかは調査できる。

<信頼度別に見た降水の有無の年平均スコア>
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●2002年4月〜2003年3月
適中率    3日目 4日目 5日目 6日目 7日目 3〜7日目
 信頼度A   75.7  78.5  68.4  100.0  ----   75.9
 信頼度B   72.5  70.5  68.6  67.1  65.0   68.9
 信頼度C   64.2  66.5  66.0  66.3  65.8    66.0
A〜C全事例  73.3  71.0  68.0  66.8  65.4   68.9

スレットスコア3日目 4日目 5日目 6日目 7日目 3〜7日目
 信頼度A   0.31  0.23  0.09  1.00  ----   0.28
 信頼度B   0.44  0.35  0.27  0.22  0.16   0.30
 信頼度C   0.49  0.45  0.36  0.31  0.22    0.31
A〜C全事例  0.41  0.35  0.29  0.26  0.19   0.30
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 信頼度がAからCへと低下するのに対応して、期間平均適中率も76%から66%に下がっている。「信頼度が低いと適中率が低い」という自然な結果となっている。
 信頼度Cの事例は、予報期間に関わりなく適中率は低迷し、Bの事例に比べて適中率が下がる。しかしその格差はAとBの間ほどには目立たない。
 実況も予報も、降水が絡むと関係は悪化する。「雨あり」のスレット・スコアを見ると、信頼度とは逆相関を示す。信頼度が高い事例でスコアが良くないという結果が出ている。
 信頼度A・B・Cがそれぞれどのような時に発表されたかを、予報3日目〜7日目までの予報期間全体で調べてみると、A発表事例のうち、予報に降水を付けた事例は14%に過ぎなかったのに、Cでは24%に達している。また実況降水率は、Aで29%に対してCでは41%だった。「信頼度Aがとかく降水を敬遠している」ことが歴然としている。

9-5 信頼度と気温予報の誤差
 誤差1℃以内に収まった事例数の割合は、信頼度が高いほど大きく、逆に信頼度が小さいと明らかに誤差が大きい事例が増える。気温予報の誤差については、信頼度との間に自然な関係が見られる。

<信頼度別に見た最高・最低気温の誤差の頻度>(%)
----------------------------------------------------------------
●2002年4月〜2003年3月
最高気温の誤差  誤差1℃以内 誤差2〜3℃ 誤差4℃以上
   信頼度A     54      31      12
   信頼度B     46      36      17
   信頼度C     40      37      23

最低気温の誤差
   信頼度A     58      35       6
   信頼度B     53      37      10
   信頼度C     45      37      16
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9-6 信頼度と予報の日替わり
 週間天気予報では、例えば、予報7日目として発表した日の降水の有無予報は、予報3日目として発表されるまでに4回更新される。その頻度を調査すると、信頼度が高い時ほど日替わりの頻度は小さい。さらに「降水あり」「降水なし」の発表事例別に比較してみた。

<信頼度別に見た降水の有無の日替わりの頻度>(%)
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●2002年4月〜2003年3月
         7日目〜3日目 5日目〜3日目 3日目〜1日目
   発表予報  降水あり なし 降水あり なし 降水あり なし
   信頼度A   ---   ---   13.6 4.1 26.3 9.6
   信頼度B   19.9 9.5   19.6 9.0 24.7 13.6
   信頼度C   16.0 10.7 15.1 13.0 24.6 21.8
  A〜C全事例  17.7 10.1 18.2 9.6 25.1 12.1
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 結果、降水なしとして発表した予報では、信頼度が高いほど日替わりが少ないという自然な関係が見られる。しかし、降水ありとして発表した予報では、この自然な関係が壊れている。降水ありとして発表した時点で付加した信頼度が、その後の日替わりの多い少ないをうまく表現できていない。日替わりの頻度自体も高い。特に、もうこれ以上の日替わりはないだろうという予報3日目で、事後の日替わりが一層頻繁に起こるという意外な結果が出ている。日替わりという観点からは「降らないと言えばだいたい信頼度の通りと考えられるが、降ると言った時にはそうでもない」というのが実情である。


10)週間天気予報の技術的課題----------------------------------------------------------------------
 週間天気予報の適中率は、アンサンブル数値予報などの転換にも関わらず、短期予報の「明日」に比べて約15ポイント低くなっている。これは予報適中の日数が一ヶ月間に5日も少ないことになり、これを縮小することが当面の課題と考えなければならない。
 また、信頼度については、実況降水のある場合や予報で降水を表現した場合に、信頼度の高低が予報の成績に反映しないことも新たな課題である。


(以上は講演資料「週間天気予報の技術基盤」から筆者(渡辺)がまとめたもので、表現等の要約の責任はすべて筆者にあることをお断りしておきます)
<話題提供2>
「続『真夏の関東トワイライトゾーン』
  〜『原田渦』について〜」

 
渡辺保之 会員
 去年9月の東京支部会合で、夏季の夜間、関東平野に出現する低気圧性循環についてご紹介したところ、「それは『原田渦』と呼ばれている現象だ」とのご教示を頂きました。そこで、過去の研究論文をレビューしてみたので、その内容をご紹介します。


1)「真夏の関東トワイライトゾーン」の再放送------------------------------------------------------
 去年9月21日の第21回東京支部会合・話題提供「真夏の関東トワイライトゾーン 〜夜な夜なうろつく低気圧〜」で、夏季の関東の夜間に出現するメソスケールの低気圧性循環について紹介した。

 ◆事例1……2001年7月13〜14日
 この事例では、20時頃に東京〜埼玉都県境に発生した低気圧性循環が停滞後、0時過ぎから北東進して明け方に消滅した。
 この時の午前0時の気温分布を見ると、東京都心のヒートアイランドが北東(東京・埼玉・千葉都県境方向)に伸びている。この形状は、低気圧性循環の発生・移動場所と重なっているように見え、発生や移動に
「海風フロントのシアライン」と「地上の高温域」が関連している可能性が考えられる。





 ◆事例2……2002年7月31日〜8月1日
 この事例では、18時には群馬南部に低気圧性循環が認められた。その後、夜半にかけて埼玉北西部へ南東進し、明け方に千葉北西部で消滅した。注目されるのは、埼玉付近で、中心付近ではほぼ無風なのに、周辺部で中心に吹き込むような風系が見られた点である。
 

 

 

 

 ◆事例3……2002年8月6〜7日
 この事例では、群馬南部から埼玉〜東京を通って、東京湾まで南東進した。特に東京湾での循環の集中化が特徴的であった。

 

 

 

 

 



1-1 総観場の考察
 ◆2002年7月31日21時地上
  ・サブHの中心は日本の南東海上
  ・リッジがサブH〜九州方面に延び、「クジラの尾型」を形成
  ・前線が北海道南部を北西〜南東に

 ◆2002年8月6日21時地上
  ・サブHの中心は関東南海上
  ・前線は東北北部に停滞

 いずれも関東の一般風場は「南系」であった。

1-2 低気圧性循環の特徴
 この低気圧性循環については、次のような特徴が見られる。
 ◆夜になってから出現  ◆明瞭な低気圧性循環  ◆関東を南東進  ◆早朝には不明瞭化


2)「Harada渦」研究の系譜------------------------------------------------------------------------
 前回の話題提供の際、この低気圧性循環は原田氏によって1970年代に検出され、「Harada渦」と呼ばれていることをご教示頂いた。そこでこの「Harada渦」研究の系譜を振り返ってみた。

 原田 朗氏は、1975年8月1〜6日に行なわれた「南関東大気環境気象調査」の観測結果から、関東地方に夜間、低気圧性の回転方向をもつ「うず」がしばしば出現することを見出した。
 この時の実測データを正方格子(12.8km)に内挿すると、関東平野東部や南部には2〜4m/s の南西風系が卓越しているが、関東平野北西部に、1m/s 前後の弱風ながら明瞭な渦が形成されている。(右:原田 朗(1988)・図10)
 渦の移動をたどると、発生後、東へ移動する傾向が見られる。

 地上渦中心から30km以内の、渦度と発散の平均値の高度・時間断面で渦の鉛直構造を見ると、次のような特徴があることが分かった。
 *上空には地上より顕著な渦
 *渦の最下部で5×10^-5[s^-1] の収束
 *渦度大の領域に2〜5×10^-5[s^-1] の発散域
   →下層の収束による上昇流を中心部に伴う「二次循環」を
    内蔵
   →下層から上層への物質・物理量の輸送機能を持つ



 「Harada渦」の性質は次のようにまとめられる。
a)晴天で地上気圧傾度の弱い時、夜間に、関東平野の西部で発生する
b)いったん発生すると、約10km/hの速度で北東から南東の間の方向に移動する
c)現象の寿命は数時間から10時間を超える範囲である
d)水平規模は 100kmかそれ以下で、鉛直には1000mくらいである
e)風は下層で収束、その上で発散する最大渦度は3×10^-4[s^-1]くらいである
f)春・夏・秋に発生


3)数値シミュレーションによる渦------------------------------------------------------------------
 Harada渦の報告を受けて、木村富士男氏は1984年発表の論文で、数値シミュレーションでこの渦の再現を行なった。
 シミュレーションの設定条件は次の通りである。
 *領域:中部山岳地帯を含む関東
      →水平領域450×450km・鉛直間隔15km・水平格子30×30km
 *温位:3.5℃/kmの一定傾度分布
 *地衡風:南西3m/s
 *10時から計算開始

 上記の条件で24時間の数値積分を行なった結果、0時の地表面25mの流れの場において明瞭な渦が形成された。(右:Kimura, F.,1986・Fig.5)

 



 このシミュレーション渦の挙動を、一般風が南西3m/s・南西5m/s・西3m/s・なしの3つの場合について調べた。その結果、
  ・日中……熱的局地風卓越
  ・21時頃…妙義山付近に強い収束点
    →東へ移動・正過度強化
  ・0時……完全な渦に → ゆっくり東へ移動
  ・朝………消滅
 という、観測実例と極めてよく似た挙動が再現された。
 また、シミュレーション渦中心から半径30km内の平均渦度の時間−鉛直断面を求めると、
  ・OOLSTを中心に高度300m付近で最も強い渦度
  ・最大渦度は、約2×10^-4[S^-1]
  ・渦はおよそ1kmの高さまで大きくなる
  ・時間とともに高度低下の傾向
との結果が得られた。これも実際の観測とよい一致を示している。


4)簡略モデル地形による渦発生メカニズム----------------------------------------------------------
 この渦の発生メカニズムを探るために、木村氏はガウシアンに従った山と、その東側山腹にクレータを置いたモデル地形を設定し、シミュレーションを行なった。これは中部山岳と関東平野の関係をモデル化したものである。

 このモデル地形で「クレータあり・一般風がない」条件下の0000LSTの地上風をシミュレートすると、Harada渦に相当する渦が、クレータ内にはっきりと形成される。
(右:Kimura, F.,1986・Fig.11)
 この渦の形成過程は次のようなものである。

  1.山風が山岳斜面全体に出現
  2.山の頂上付近に強い発散が出現
  3.山の周りには反時計回りの循環
     →日中、山上に発達した熱的低気圧の名残り
     →この循環は渦の形成に非常に重要
  4.渦の発現

 数値積分を日没後から始めると渦は形成されない。またクレータがない場合、数値積分を朝から始めても渦は形成されない。このことから、クレータの存在が渦の形成に不可欠であることが分かる。
 鉛直分布を見ると、正渦度が高度 800mまで伸びているが、大きな正渦度は最下層の 500mに出現している。

 また「西3m/s の一般風」を与えると、渦は一般風がない時よりも顕著で、ゆっくりと東へ移動する結果が得られた。

 クレータありのモデル地形で、地表の渦度分布を追うと、
  *日中……渦度は山の上に蓄積、メソ循環(熱的低気圧)を形成
  *夕方早い時間(18-21)……渦度最大
  *その後、山頂の周りから発散流が現れ、渦度は急速に減少
  *0000LST……ほぼゼロに・山の麓には高い渦度残存

 高渦度域にクレータがある場合、渦度はクレータによってさらに強化され、そこに渦を形成することが分かった。

 以上の形成メカニズムをまとめると、次のようになる。
 ◆ステージ1(日中)
  ・熱的局地風(anabatic風)が山に発達
  ・コリオリ力によって渦度が蓄積
  ・この風系は地形には依存しないので、クレータは重要ではない

 ◆ステージ2(夕方)
  ・高い渦度を持った空気がKatabatic風によって下降
  ・山の中央部の渦度は発散流によって減少
    →結果、比較的高い渦度が山裾の周囲に発現

 ◆ステージ3(深夜)
  ・比較的成層状態になり地上風が地形に沿うようになる
  ・クレータを囲む斜面で、斜面下降風が高い渦度を集積して渦を形成

 さらに一般風の効果を考えると
 ◆a)一般風で渦度が風下に輸送
     →この効果は、地表摩擦が小さくなる夕方に顕著に
 ◆b)一般風の鉛直シアと山の局地収束との相互作用
 ◆c)夕方の一般風の総合的効果
     ・最大渦度は山の風下側の右側に生じる
     ・山の東側にクレータがあれば、南西風が渦を最も強める


5)北海道に発生する渦----------------------------------------------------------------------------
5-1 北海道を対象にした数値シミュレーション
 ところで以上のシミュレーション結果から、ガウシアンに近い形状の大きい山塊と、山腹にえぐられたような地形があるところでは、Harada渦に似た渦が形成されることが予想される。
 そこで北海道を対象に「一般風なし」条件で地上風シミュレーションを行なった結果、「留萌沖」「網走沖」「十勝沖」の3カ所に渦の形成が見られた。(右:Kimura, F.,1986・Fig.20)特に十勝沖の渦が海岸に最も近い位置に発生し、風速も最も強いものになることが予想された。

 また「穏やかな西の一般風」を仮定したシミュレーションでは、
  ・留萌沖の渦は消滅
  ・網走沖の渦は西へずれる
  ・十勝沖の渦はほぼ同じ位置でより強いものに
という結果が得られた。

5-2 観測例
 北海道が高気圧下でよく晴れた夜間、地上風が静穏か非常に弱い南西風である時、「十勝沖」渦の北半分を認めることができる。木村論文では、1980年9月9日2200JSTの AMeDas地上風分布で、十勝地方沿岸部に低気圧性循環が認められる例を示している。

 渡辺が、同じような総観場の条件の日について調べたところ、似たような低気圧性循環は、例えば2001年7月15日、7月26日、9月3日にも発生しているようで、いずれも十勝平野で発生し、南東に移動して十勝沖に出るような挙動が認められた。


 

<参考文献>
 Kimura, F.,1986:Formation Mechanism of Nocturnal Mesoscale Vortex in Kanto Plain. J. Meteor.
   Soc. Japan,64,857-870
 木村富士男(1988):局地循環の数値シミュレーション.気象研究ノート,163,39-60
 原田 朗(1988):関東地方の局地循環(1).気象研究ノート,163,61-73

<話題提供3>
「東京支部の正式支部化」

 渡辺保之 会員
 東京支部を、「気象予報士会会則」に基づく「正式支部」にすることを提案し、賛成多数でご承認頂きました。これを受けて平成15年6月28日に申請書類を幹事会に提出しました。支部としての正式承認は、平成16年の気象予報士会総会で、ということになりますが、それまでは暫定的に「正式支部」とみなされることになっています。
 また、東京支部の行事の運営をお手伝い頂くみなさん(東京支部会員以外も含む)を「東京支部サポートスタッフ」として、これまで通り天気図検討会などを中心にご助力頂くことになりました。

 

     2003年(H15)11月18日 第24回東京支部会合

<話題提供1>
「「我が国の長期予報とその周辺」

 酒井重典会員(前新潟地方気象台台長)
 酒井さんは、長く気象庁で長期予報の予報官としてご活躍になり、今年3月まで新潟地方気象台台長を務められました。今回は、日本の長期予報の歩みと、そのトピックをお話し頂きました。


1)長期予報の揺籃期------------------------------------------------------------------------------
 日本の長期予報は、明治35年から頻発した明治凶作群を受けて、農学者や気候学者が冷夏や冷害の研究に取り組み始めたのが発端である。春の時点で半年先の夏の天候を予測するという厳しい課題を背負っての出発は気象学の技術レベルを超えて社会の要請に応えようとしたものであった。

 この頃の研究で、既に東北地方の冷害が、沿岸の海水温と関係していることや、北の高気圧から吹き出す北東風が凶作をもたらすことなどが指摘されていた。これは「やませ」や「オホーツク海高気圧」の発達に注目したもので、これは現在の視点でも、ポイントをついた研究であった。

 中央気象台(現在の気象庁)が長期予報の第1号を発表したのは、昭和17年8月の1か月予報である。続いて9月には3か月予報が、翌18年の4月には暖候期予報も発表された。しかし当時は第二次世界大戦中で、予報は軍事機密。広く一般に報道されることはなく、軍関係や農林省などの関係方面だけに発表するというものであった。


2)初期の長期予報--------------------------------------------------------------------------------
 終戦後、昭和20年12月から、長期予報がラジオで放送されるようになり、広く一般の人が長期予報を利用できるようになったが、昭和24年12月には早くも長期予報の発表は中止となった。その主な理由は、この冬の寒候期予報が大きく外れたことによると言われている。昭和24年冬はそれまで続いていた寒冬の時代から暖冬の時代へと、冬の天候ベースが大きくシフトする変わり目の年であった。後に「気候のジャンプ」と言われるほど天候のベースが急激に変化した年であった。

 その後、農業関係者などからの強い要望により、長期予報発表が再開されたのは昭和28年2月である。昭和27年頃からは北半球全体の高層観測資料も収集出来るようになり、この頃から長期予報の研究は大きく進歩した。その過程でいろいろな予報則の開発も行なわれた。例えば次のようなものである。

 ◆南鳥島の 70hPaの風向が、それまでの西よりから東よりに変わった日から30数日後に梅雨入り
  風速 10m/s以上の東よりの風が連続して5日以上吹き始めた日から30数日後に梅雨明け
 ◆シベリア・エニセースクの冬の気圧値から夏の天候を予測
 ◆成層圏突然昇温の後、そのまま夏型に移行する場合と、再び冬の気圧配置に戻る場合があるが、その関係
  で季節の推移を判断する

 やがて全球的な気象資料の整備が進み、天気図を用いたシノプティックな予報法が長期予報にも導入されるようになった。これは対象地点・地域の天候と、北半球全体の各格子点上の気圧等との相関分布図を作成し、その分布図を基に気象学的な意味付けをした解析結果から天候を予測する方法で、「相関シノプティックス」と名付けられた。こうした解析から、今日で言う「テレコネクション」に相当するものもある。一つの例として、冬季、グリーンランド付近で気圧の尾根が発達した場合、それから2半旬後あるいは4半旬後に日本付近に寒気が南下するというものである。このパターンは、現在EUパターンと言われているものに他ならない。このような統計的手法に立脚した技術は、その後の物理的な解釈が行なわれ、1か月予報や3か月予報あるいは暖・寒候期予報などに適用され、力学的長期予報が導入されるまで長期予報の主流となっていった。


3)力学的方法による長期予報----------------------------------------------------------------------
 平成5年3月、初めて力学的手法による数値予報が長期予報に導入された。しかしこの時点では1か月予報のうち、前半の部分に15日数値予報を適用するというもので、統計的手法の補助的資料に過ぎなかった。その後、平成8年、アンサンブル手法が開発されたことで、全面的に数値予報に基づいた1か月予報が現業化された。平成15年3月から3か月予報、9月から寒候期予報にも、アンサンブル予報が取り入れられている。

 1か月予報へのアンサンブル予報導入をきっかけに、長期予報の発表に対する基本的な考え方も変わった。それまでの長期予報は文章による細かな天候経過の記述を中心としていたが、この時から定量的評価が困難な天候経過等は予報文として記述されていない。気温・降水量・日照時間などの要素別予報を中心として、確率表示による客観的表現となった。また梅雨入り・明けに関する予報、台風発生数・上陸数などの予報は、明瞭な予報根拠がある場合を除いて予報していない。平成8年10月からは、3か月予報及び暖候期・寒候期予報にも確率をつけた予報を発表するようになり、すべての長期予報が確率表現となった。


4)長期予報の利・活用について--------------------------------------------------------------------
 気象庁が発表する予報の内容や頻度などは、広範なユーザーの要望を最大公約数的に満たすべく、その幅を広げている。その意味で個人や組織が気象や天候に起因するリスクを回避、あるいは逆に積極的に利用しようと思えば、自己の目的に沿って整理し直す作業が不可欠である。

 アンサンブル予報の最大の特長は、気温や降水などの平均値以外に、出現分布や確率を定量的に与えてくれることにある。アンサンブル予報が、これまでの決定論的な数値予報に比べて優れていることは広く受け容れられているが、利用方法の開発が非常に遅れているのは否めない。アンサンブル予報の利便性は、各ユーザーが意思決定のための有効な応用モデルを作って初めて発揮される。その確率的性質を利用することにより、種々の意思決定に有効な情報を引き出すことが出来る。

 また、予報には有効期間があり、その期間が満了するまでの間に何度か更新される。1か月予報は毎週金曜日、3か月予報は月一度更新される。予報の有効期間や、リードタイムを考慮した予報の利用が必要である。
<話題提供2>
「東京(大手町)の夜間の冷却率と風速の関係について」
 関 隆則 会員
 関さんが日本気象学会秋季大会のポスターセッションで発表された自主研究を発表して頂きました。関さんは以前の研究から、日較差が大きい地点に関心を持ち、今回は夜間の気温低下の特性について分析をされたものです。


1)データ・解析対象の抽出------------------------------------------------------------------------
 東京・大手町AMeDASのデータを使用し、1991〜2002年の3月(のべ372日)のうち、最高気温と次の日の最低気温の差が10℃以上あった71日を抽出。そのうち18〜0時、0〜6時の間が線形近似でき、かつ翌日6時以降に気温が上昇している21日を解析対象とした。この21日をさらに夜間の気温が連続的に降下する7日と、それ以外の14日に分けた。


2)冷却率----------------------------------------------------------------------------------------
 18時と24時、翌日の0時と6時のそれぞれの気温差を経過時間で割って冷却率とした。


3)東京の風速と冷却率----------------------------------------------------------------------------
・18〜24時の冷却率
 高い相関ではないが、同時間内の平均風速が強いほど、冷却率が大きい傾向が見られる。これは、風による地表や建物からの顕熱輸送(冷却)の促進が効いているのではないかと考えられる。また、夜間の気温が連続的に降下する7日分は、いずれも4m/s 以上の強い風が吹いていた。

・0〜6時の冷却率
 夜半前とは逆に、風速が増すに連れて、冷却率が減少する傾向が見られる。風による大気境界層からの顕熱輸送(加熱)が働き、冷却が抑制されている可能性がある。


4)郊外・東京の比較------------------------------------------------------------------------------
・冷却率の位相関係
 解析対象とした21日分の中には、夕方、東京との比較で、所沢や八王子といった郊外から冷却が進行するような気温変化になった日が見られた。これを夜間の気温が連続的に降下する7日と、それ以外の14日に分けて見ると、7日分(これは4m/s 以上の風が強い日でもある)では、ほとんどで、冷却の進行が「東京と郊外で同時か東京が先行」しているが、14日分では「郊外の冷却が先行」した事例が半数を超えるという差異が見られる。

・地域間の風速の相関
 東京と所沢・八王子の平均風速の相関を調べると、東京と所沢では相関が見られるが、東京と八王子では相関は認められなかった。

・夜間の冷却が顕著な日の風と冷却率
 夜間冷却が顕著な日の風速を調べると、東京では比較的強い風の時が多いが、所沢では静穏時が含まれ、八王子では弱風時が多い。時間帯ごとに見てみる。

・18〜24時
 所沢・八王子では、弱風時に冷却率大(放射冷却が効いている)であるが、東京では弱風時の冷却率は増加していない。合わせると、ほぼ4m/s の時に冷却率は最小となっている。

・0〜6時
 地点を問わず、冷却率と風速の相関は小さい。


5)まとめ----------------------------------------------------------------------------------------
 ポイントをまとめる。
  ・気温降下には風の影響が大きい
  ・18〜24時の冷却は、顕熱輸送(冷却)主導で、地面や建物に蓄熱していることから、風の強い夜は冷却
   速度が早い
  ・大手町では、3m/s 未満の弱風時には顕著な冷却がない
  ・0時以降、冷却率は低下する
  ・0〜6時の冷却は、冷却率と風速の相関が小さく放射冷却主導と思われるが、大手町では風による大気
   境界層からの顕熱輸送(加熱)がありそう


 質疑応答の中で、東京・大手町の観測は、風と気温の観測点が離れたところにあるため、こうした解析にはふさわしくないのではないか、アメダス観測点の方が同一箇所に置かれているので解析に適していると思う、といった指摘がありました。→平均的は冷却率を見ているが、気温変化を時間を追って風速、風向、天気などとの関係を調べてはどうかといった提案もなされました。
<話題提供3>
「天気図検討会この1年の活動報告」
 佐々木恒 会員(東京支部事務局)
 東京支部の活動は「天気図検討会」「会合」「施設見学会」の3本柱で成り立っています(+「懇親会」の4本柱?)。その「天気図検討会」のこの1年の活動状況について、東京支部事務局の佐々木恒さんから報告して頂きました。


1)はじめに--------------------------------------------------------------------------------------
 天気図検討会この1年の最大のトピックスは「開催回数50回達成」であろう。また新企画が目白押しの1年でもあった。例えば

 ・午前中からの開催(6月/50回記念大会)
 ・日光で夏合宿(8月)
 ・入門コースへのサポーター制導入(9〜11月)
 ・チーム対抗戦形式(4・5月)
 ・3日先までの予報に挑戦(7月)


2)天気図検討会は今年で満6歳--------------------------------------------------------------------
 東京支部天気図検討会は平成9年11月28日に第1回が開催され、平成15年6月21日の開催で50回、11月30日の第56回で満6歳を迎える。この6年間でさまざまな形式に取り組んできた。

 ・入門コースの併設(第25回/平成12年9月9日)
 ・天気図検討会メーリングリスト開設(第27回/平成12年11月25日)
 ・予報検証用データの配布・配信(第29回/平成13年3月10日)
 ・通信式天気図検討会を併設(第33・37回)
 ・グループ解析を開始(第36回/平成13年11月14日)
 ・天気図解析から予報専念へシフト(第42回/平成14年7月14日)

 この6年間の延べ参加人数は 269人で、参加回数11回以上が36人、うち31回以上の人が11人いて、これらの人たちを中心に「天気図検討会世話人」を構成している(26人)。また世話人の中から持ち回りで「事務局」を構成している。事務局を中心に、世話人がサポートする形で天気図検討会を運営し、連絡調整用に「天気図検討会世話人メーリングリスト」を開設している。

 平均参加人数は、最近10回で39.3人に達している。平成12年の第20回頃から参加人数が増加した。一方で、1回の参加に留まる「いちげんさん」が多いのも事実であり、今後「いちげんさん」を減らす方法の模索も必要であろうと思われる。

 この1年の活動の中でのトピックスとして、平成15年10月12〜13日に日本付近を通過した「亜熱帯低気圧」が、12日の第54回天気図検討会と重なり、検討会での議論に注目が集まった。気象予報士会メーリングリストでも情報交換が行なわれ、天気図検討会事務局では、こうした情報交換の一部または全部を引用する形でレポートを作成した。

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