2002年 東京支部会合 概要

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     2002年(H14)2月10日 第19回東京支部会合

<話題提供1>
アンサンブル手法を用いた数値予報

 
経田正幸 会員(気象庁数値予報課)
(1)現在の数値予報
 現在行なわれている数値予報は、大気の状態を支配する物理法則に基づき、大気の物理量の変化を計算するもので、その結果は天気図となったり、ガイダンス処理によりさまざまな気象情報に翻訳される。
 この計算を行なうためには、現在の大気の状態=初期状態を知る必要がある。この初期状態は、観測か、観測がないところは推定値を使って決める。この作業を解析といい、得られた結果を解析値という。この解析値が現実と違うと、予測も誤る可能性がある。


(2)数値予報の利用
 数値予報を利用する場合、次のような留意点がある。
   ●モデルの特徴を把握する
    ・モデルの系統的な誤差をする
    ・モデルの目的外の使用をしていないか
   ●格子点情報は代表値である
    ・モデル内と実際の現象にはズレがある
   ●初期値の信頼性を意識する
    ・実況とのズレ=解析誤差がないか


(3)数値予報の限界
 解析値と実況の違い(解析誤差)も、予報値と実況の違い(予報誤差)を生む。数値予報の誤差が
  ・気候値予報=気候値を予報値とする
  ・持続予報 =解析値をその後の予報値とする
の誤差より小さいことが数値予報の有効性(予測可能性)を示す尺度になる。実際の数値予報では、5日程度が限界である。これは、大気がカオスの性質を持つため、予測を行なうと解析誤差が指数関数的に増大してしまうことによる。
 そもそもカオスの性質を持つ大気に対して、決定的な予想を行おうとすることに無理がある。そこで、初期値には誤差が含まれていることを前提に、その誤差幅を考慮した予測を行なう手法が登場している。これがアンサンブル手法による予報である。


(4)アンサンブル手法による予測
 アンサンブル手法による予測は、初期の解析誤差に基いて確率密度関数を推定し、これを考慮した初期値を使って予測を行なう。それらの集合を、予測される確率密度関数とする

   ・・・ −−−−−−−−−−−−>  ・・・・
  ・ ● ・     予        ・    ・
  ・   ・             ・  ▲   ・
   ・・・ −−−  測       ・      ・
初期の        −−−       ・      ・
  確率密度関数     −−−     ・    ・
●解析値 の周りに       −−−>  ・・・・
解析誤差が分布する
                    予報の確率密度関数
                     =スプレッド

 具体的には、解析誤差程度の大きさを持つ人工的な誤差(摂動と呼ぶ)を見積もり、摂動を解析値に加えたり引いたりして複数の初期値を用意する。
 解析値からの予報をコントロールラン、摂動を加えた(減じた)解析値からの予報を摂動ランと呼ぶ。また、区別なく個々の予報を指す時はメンバーと呼び、気象庁の週間アンサンブル予報は25メンバーある。全メンバーの予報値の平均値を「アンサンブル平均予報値」と呼び、アンサンブル平均予報の誤差がいずれのメンバーの予報誤差よりも小さいと期待される。

 実際に初期値をわずかに変えることで、単独予報では表現されていなかった低気圧や高気圧が予測できる例もあり、アンサンブル手法の効果が裏付けられている。


(5)アンサンブル予報の問題点
 アンサンブル予報の問題点としては、
  ●メンバー数や代表性の問題
  ●数値予報モデルの精度の問題
   初期値の選び方に偏りがあったり、モデルに系統誤差があると、アンサンブル予報のスプレッドが適切
   に形成されないことが起こりうる。

  ●計算資源の問題
   多くの数値予報モデルを動かすことになるアンサンブル予報は、大量に計算機資源を消費する。アンサ
   ンブル予報が実用化された背景には、近年のめざましい計算機システムの向上がある。


(7)週間アンサンブル予報のシステム構成
 現在気象庁で行なっている週間アンサンブル予報は、高解像度全球数値予報モデルの低解像度版を使用して、12UTC を初期値とする9日予報を1日1回、メンバー数25で行なっている。
 摂動の作成手法には、BGM法(Breeding of Growing Modes) を用いている。気象庁では、コントロールランと摂動ランの12時間予報値の差から成長する誤差を見積もり、その誤差パターンを12時間後の摂動としている。25メンバーの初期値作成に、摂動を12個用意する必要があるため、誤差成長を見積もるための摂動ランは12個実行している。


(8)アンサンブル予報の使い方と評価
 アンサンブル予報結果の処理には、「統計」を用いる。

   <統計処理>    <アンサンブル予報>
     平 均   =   アンサンブル平均
  分散・標準偏差  =     スプレッド
    確率分布   =     確率予報

 ただし、予報結果が正規分布していない場合は、以上のような統計処理では十分な情報が引き出せない。クラスター分析などによりメンバーの分類を行い、それぞれの分類からどういう予報シナリオが考えられるかなどという工夫が必要である。

 アンサンブル予報を使った確率予報の考え方として「全メンバー中の出現率を確率予報値とする」という手法がある。例えば「5日後の東京付近の日中の地上気温が30℃を超えるメンバーが25メンバー中20メンバー存在した場合、その確率は80%である」とするものである。
 アンサンブル予報の確率予報をブライアスコアで検証すると、週間予報の期間では、高解像度全球モデルや気候値予報と比べて十分な価値を持つ結果が出ている。

 配信FAX図などでは、第一の代表として「センタークラスタ」を採用している。これは、アンサンブル平均に代わるものとして、アンサンブル平均と距離が近いものをいくつか平均したもので、スムージングされすぎて、場の流れが捉えにくくなるのを防ぐために行なっている。


(9)アンサンブル予報の今後
  ●よりリアルな確率密度を求めるため、メンバー数を増やす
  ●大雨、強風などのシビア現象の可能性を3〜4日前から探すために、全球モデルの水平解像度を上げる
  ●台風や集中豪雨など、ニーズが高い予報へのアンサンブル手法の導入
<話題提供2>
関東地方の冷え込みパターン

 
大門禎広 会員(栃木県気象予報士会)
(1)はじめに
 朝の気温は一般的には標高の高いところ、北の地方や内陸の地方ほど低くなる。しかし、関東地方だけで見ても、地形の影響により標高や緯度では簡単に決まらない。
 そこで、2000年12月から2001年2月の冬の朝(5時)の気温についてその分布を調べ、冷え込みパターンを抽出してみた。


(2)冷え込みに影響を与える要因
 一般的に冷え込みに関係する要因として、次のようなものが挙げられる。

  ●緯度……北ほど低温    ●標高……高いところほど低温    ●隔海度…内陸ほど低温
  ●風速……風が弱いと低温  ●寒気……寒気が入れば低温


(3)関東地方の地形
 冷え込みのパターンに影響を与える地形的要因としては、関東地方では次のようなところが挙げられる。

  ●山地……関東山地、箱根、伊豆半島、谷川岳、日光、那須など   ●鞍部……三国峠、那須
  ●海………太平洋、東京湾、相模湾                ●川………利根川、那珂川


(4)天気図型と気温分布
A)冬型(北西風)……850hPa面が北西風/例:2000年12月11日

  ●高温の地域……古利根川沿い、栃木県北部、東京湾岸
  ●低温の地域……栃木県・茨城県南部、千葉県内陸

   このパターンは、850hPa面が北西〜西北西風の場合に起きやすい。地形的に風が三国峠や那須の鞍部を
   越えやすいためと考えられる。そのため古利根川沿いや栃木県北部平地は風が強く、放射冷却が利かな
   くなり朝冷え込まなくなる。


B)冬型(弱風)/例:2001年1月18日

  ●高温の地域……東京湾岸
  ●低温の地域……内陸

   850hPa面の風が北西〜西北西以外のときは、風は鞍部を越えられず関東平野は全般に弱風となり、冷え
   込みが強くなる。


C)冬型(南西風)……南関東で南西風/例:2001年1月4日

  ●高温の地域……南房総、東京湾岸、相模湾岸
  ●低温の地域……埼玉県、茨城県南部

   冬型でも500hPa面の谷が関東を抜け切らない場合や、500hPa面で切離低気圧が日本海で停滞した場合な
   ど、500hPa面の谷が関東を抜け切らない場合に起こる。東海道を回ってきた風が伊豆半島の南を通って 
   南関東に入るため南西風となる。


D)移動性高気圧型/例:2000年12月14日

  ●低温の地域……北部山沿い

   冬型(無風)の場合と同じような傾向であるが、冬型が緩んだ型であるため、北部山沿いでも雲がとれ
   るため、内陸の平地だけでなく山沿いでも冷え込みが強くなる。ただし、孤立峰など放射冷却の効かな
   い所では上層の昇温の影響で気温が高くなる。


E)南岸低気圧型/例:2001年1月27日

  ●高温の地域……東部沿岸、館山

   内陸部については標高に応じた気温となるが、北東気流により、東部の沿岸は高温になる。特に銚子付
   近は高温になる。


F)日本海低気圧/例:2000年12月10日

  ●高温の地域……高原、東部沿岸

   内陸部に背の低い寒冷高気圧ができた状態となり、内陸の平地は冷え込むが、寒冷高気圧の冷気の上に
   ある高原などでは気温が高い。また、房総には沿岸前線が発生することも多く、沿岸前線の南側に入る
   ところでも気温が高くなる。

 このほか、各アメダスポイントでのタイプごとの平均気温や、予報の目安となるよう、館野の850hPa面気温や、大手町との気温差を調べた資料もご教示頂きました。
<話題提供3>
気象庁予報作業指針 〜予報用語クイズ〜

 渡辺保之 会員
 アトラクションとして、気象庁が部内の予報作業指針としてまとめている「予報用語」から作成したクイズ計20問を、抜き打ちでみなさんに出題しました。ほとんどイジワルクイズの域に達していますが、その中から何問かをご紹介します。

問1)次のうち「使用を控える用語」はどれか
 1.再来年  2.一両日  3.しばらく  4.あす一杯  5.数日

問13)次のうち正しいのはどれか
 1.雨滴が凍って落下する「凍雨」は、予報文では「雨」として扱う
 2.微細な氷の結晶が大気中に浮遊して視程が1km未満となっている状態を「霧氷」と言う
 3.地ふぶきによる視程障害や吹きだまりによる交通障害の発生する可能性がある場合には、暴風雪警報、風
  雪注意報を発表する
 4.降雪量が大雪注意報の基準を超えるくらいの強さの雪を「強い雪」と言う
 5.「積雪0cm」と「積雪なし」は同義である

問15)次のうち「使用を控える用語」はどれか
 1.土砂崩れ  2.右岸・左岸  3.内水氾濫  4.融雪洪水  5.計画高水位

 参加者の方からは「全部同じ番号をつける『持続予報』でも4問当たった」との声も聞かれましたが、さて上の3問、いかがだったでしょうか?

 正解は 問1)2 →「きょうもあすも」と言い換える
     問13)3 →1は「雪」 2は「氷霧」
           4は「降雪量がおよそ3cm/h以上の雪 
           5は0cm……観測場所周辺の地面の半ば以上を雪が覆う現象
             なし……観測場所周辺の地面に雪が全くないか、または半ば以上を覆っていない     
                 状態
     問15)1 →意外や意外「山崩れ、がけ崩れ」と言い換える

でした。なおこの「予報用語」は、気象庁のホームページ

 http://www.kishou.go.jp/know/yohouyougo/index.html

で見ることができます。

 

     2002年(H14)6月15日 第20回東京支部会合

<概要>
 
<話題提供1>
雲と天気の観測

 
手島 暁 会員
 地上気象観測のうち、目視で行なう「雲」と「天気」の観測法の紹介と、手島さん独自のノウハウをお話し頂きました。


1)雲の観測
 雲の観測は、その形や出現の仕方が千差万別であり、地上気象観測の中でも熟練を要する。また目視で行なうため、主観や個人差が入りやすく、客観性の確保に努力が必要である。

1-1)観測項目
 ・全雲量 ・10類雲形別雲量 ・10類雲形 ・10類雲形別の雲の向き ・雲の状態

1-2)雲量
 「全雲量」は空全体に対しての雲の割合を10分比で表す。10類雲形別雲量も同様に行なう。雲は部分的に重なっているため、

  (全雲量)≦(10類雲形別雲量の合計) となる。

 霧や風塵などで雲が判らないときや、重なっている部分の雲量が推定できないときは「不明=不定“×”」とする。

1-2)10類雲形
 ・層雲=St  ・層積雲=Sc ・積雲=Cu  ・積乱雲=Cb
 ・高層雲=As ・乱層雲=Ns ・高積雲=Ac ・巻雲=Ci
 ・巻層雲=Cs ・巻積雲=Cc

1-3)10類雲形別の向き
 「雲の向き」は風向と同じ。8方位で表し、西→東に動いていたら「向き=西」とする。向きが分からない場合「×」、ほぼ静止している場合「−」と記録する。

1-4)雲の状態
 ・下層雲=CL ・中層雲=CM ・上層雲=CH ・全雲量=N
 ・下層雲または中層雲の雲量=Nh  の略号を使って記録する。


2)天気の観測
 WMO は、現在天気を 100種類、過去天気10種類に分類している。

2-1)現在天気
 観測時および観測時の1時間以内の天気変化で決定する。
(補足説明)
 ・砂塵嵐、高い地吹雪、霧雨、霧雨と雨、着氷性の霧雨の強度は「視程」によって決める
 ・あられ、ひょうの強度は「降り方」「積もり方」を参考に目視で決定する
 ・雷の強度は「雷鳴の程度」で判断
 ・スコールは「急に吹く強い風」で、降水の有無とは無関係に決定
 ・霧雨は「直径0.5mm未満の雨が一様に降る」現象
 ・凍雨は高層雲か乱層雲から降る。驟雨性としては降らない
 ・「▽」の記号は驟雨性を意味する
 ・煙、煙霧、塵煙霧、風塵、もやは視程10km未満の時とる

2-2)過去天気
 観測から観測の間に起きた天気現象を記述する。2つ報じられ、該当が2つ以上ある時には、番号が大きい方がW1、次に大きいのがW2として報じられる。なお現在は、現在天気が00〜03番、過去天気が0〜2番の時は通報が省略される。


3)雲と天気の関係
3-1)降水の型……地雨と驟雨
 気象観測では
 ・地雨=層状雲から降っている雨 →層雲・層積雲・高層雲・乱層雲・高積雲
 ・驟雨=対流雲から降っている雨 →積雲・積乱雲
としている。

3-2)雷と積乱雲
 観測時に雷現象があった場合、積乱雲とする。それに伴い雲の状態はCL=3または9とする。

3-3)霧雨
 霧雨やその類の着氷性の霧雨などは、かなり厚い連続した層雲から降る。そのため霧雨が降っているときは雲は「層雲」とし、雲の状態はCL=6または7とする。

3-4)凍雨
 凍雨が降っているときには高層雲や乱層雲がある。しかし下層雲に隠れる可能性があるため、それらが観測されるとは限らない。

3-5)霧
 層雲による霧のときには、層雲の雲量は不定=×、通報式N=9とする。


4)観測の実際
4-1)前観測時刻から
 ・気象状況、空模様の変化を把握 ・過去天気該当の天気現象の記録
 ・1時間前からは現在天気該当の天気現象、現象変化の記録

4-2)観測時刻15分ぐらい前から
 ・全雲量、視程を決定 ・10類雲形別雲量、向きを決定……地面から近い雲から観測
 ・雲の状態の決定

4-3)観測時刻5分前
 ・現在天気の決定 ・野帳に記録


5)疑問点ほか
●日本の観測点は驟雨性が多い?
 西日本から朝鮮半島にかけてまとまった雨域があるとき、日本の観測点では「にわか雨」、韓国の観測点では「雨」と報じることがある。台湾では「にわか雨」と報じられることはほとんどない。
 国によって気象観測のクセや傾向があるようである。これ以外にも

 ・ロシアは「驟雨性降水」を取るときはいつも「積乱雲」
 ・フィリピンでは過去天気がだいだい「霧」
 ・日本は周辺国と比べると「驟雨性降水」や「対流雲」を取りたがる
 ・日本と朝鮮半島の国々は、「地平線から空に広がりつつ……」や「積雲または積乱雲が広がってあるいは  
  発生した……」は、あまり取りたがらない

 これらは、間違いとかおかしい、というものではなく、気象をどう考え、どう捉えているかという点についてのお国柄や国による違いであって興味深い。

●全雲量、視程、天気、雲のSYNOPコードは煩雑
 現在天気はむりやり 100種類に納めた感もある。空白にしておくのはもったいないし、オーバーしては困る、といったところか。ところで、「1時間以内に止み間があり、並や強い地雨」(=コード62、64)という
状態はあるのだろうか?

●主観が入らないか?
 気象庁に聞くと「入らない」というが、目視でやっている以上、入ると思う。もちろん出来るだけ客観性を持たせる努力は必要。

●巻雲と巻層雲の見分け方は?
 ムラがあまりなく、一様にベール状に広がっていれば巻層雲、ムラがあれば巻雲(おもに濃密)としている。

●高積雲とは?
 一般的には「羊雲」と言われるが、実際にはそんなきれいな形で出ることはあまりない。私は「板状で輪郭が比較的はっきりしているものを高積雲」としている。「輪郭がぼやけていて、ベール状に広がって」いれば「高層雲」としている。

●積雲と層積雲の見分け方
 積雲の特徴であるもくもくした外観が失われ、雲頂部が平べったくなったかどうかが決め手になる。雲が多く、分かりづらいときには、雲の変化過程などから判断している。

●冬の積雲
 冬型時に現れる積雲は、氷晶からできているため、もくもくした外観が失われ、ボヤーとしたものが多く見られることがある。比較的低いところに出来ることから巻雲との見分けをつける。

●層雲と層積雲の見分け方
 「霧状や輪郭がかなりぼやけて、ちぎれちぎれ」になっていれば層雲そうでなければ「層積雲」としている。霧雨、霧雨に近い細雨であれば層雲としている。

●積雲と積乱雲の見分け方
 雲頂部が見えない場合、雲の変化から間接的に判断したり、雷現象の有無が判断基準になる。

●積雲の発達程度は
 10類雲形では同じ積雲でも、符号化では「扁平な積雲」「中程度以上の積雲」とに分ける必要がある。この場合、雲頂部が見えなければ、変化過程や雲底の暗さなどで間接的に判断している。

●搭状雲と房状雲とは?
 巻雲、巻積雲、高積雲、層積雲(塔状雲のみ)に見られる。「塔状雲」とは「水平方向に広がり、その共通の底から、こぶのように盛り上がった雲」であり、「房状雲」とは「積雲のような外観」であるとされている。

●もやと煙霧、煙霧と煙の違いは?
 湿っぽければ「もや」、そうでなければ「煙霧」としている。「煙」は原因が明らかに煙と分かる場合のみとしている。
<話題提供2>
数値予報モデルによる熱雷の予報可能性

 
吉田 優 会員(東京大学海洋研究所)
 数値予報モデルで夏季の熱雷はどのぐらい予報できるのか?吉田さんの大学院での研究成果からお話し頂きました。


1)事例解析
 2000年7月1〜5日にかけて関東地方で発生した熱雷を対象とした。いずれの日も大気の鉛直安定度を示すCAPE(対流有効位置エネルギー)が、館野・浜松・輪島で1000〜1500J/kgと、中央値の200〜350J/kgに比べて大きい値=不安定を示していた。
 上層風は、400hPa以下では 10m/s以下と、鉛直シアは小さかった。5日を除いて、地上天気図では日本付近に目立った擾乱は見られなかった。

(編注)------------------------------------------------------------------------------------------
 概況としては、
 1日……熊谷で日中の最高気温36.6℃
 2日……上空に寒気流入。関東や近畿、九州などで夕立。群馬県桐生で16〜17時に65.5mmを記録
 3日……寒気流入続く。東京で16時に直径7mmのひょうを観測
 4日……寒気居座る。東北〜九州の広範囲で雷雨。東京で1737〜1837に82.5mm、直径7mmのひょうを観測。
     東京・新木場で18〜19時に85mm
 5日……上空の寒気はゆっくり東進。東北〜九州でにわか雨。山沿いで30mm/h以上のところも
--------------------------------------------------------------------------------------------------

 降水推移を見ると、1・5日は山岳部を中心に降水がある「山岳型」、2・4日は山岳部で発生して平野部に移動してくる「移動型」、3日はあちらこちらで発生した「散発型」と分類できる。
 山岳部での降水は、越後平野からの海風と関東平野の広域海風の収束が、平野部では相模湾、房総半島、鹿島灘からのそれぞれ海風の収束が大きな役割を果たしている。


2)予報実験
 この熱雷の再現する予報実験に「気象研究所/数値予報課統一非静力学モデル」を使用した。モデルは格子間隔5kmで、初期条件に前日21JSTを初期値とするRSMの3時間予報値(00JSTに対応)を使用し、先24時間を計算した。

2-1)7月1日・山岳型
 10時……伊豆・房総半島付近のSW風や、総観規模前線に伴うエコーをよく再現。モデル上では早くも山岳上
     に降水が発生している(この降水はレーダーでは観測されていない)
 14時……おおよそ標高1000mに沿って降水系が広がる。広域海風系がよく再現されている
 18時……降水系はやや平野部に移動し、その後沿岸に達することなく衰退している

2-2)7月4日・移動型
 10時……モデル上には1日と同様に既に降水を予報している
 18時……降水系は平野部に移動、東京や埼玉の強雨をよく再現

 ちなみに RSMでは、山岳部での降水を表現し続けており、平野部への移動は再現できていない。

2-3)モデル上の再現降水量
 1・2日…時間変化はよく表現できているが、量は過大
 3日………再現性がよくない(散発型)
 4日………降水のピークとなる時刻がモデルの方が2〜3時間早い

2-4)降水域割合
 1mm/h以上の降水を表現した「降水域」については比較的良好であるが、20mm/h以上の「強雨域」は、モデルの方が約2倍多く表現されている。また4日については、そのどちらもピークがモデルの方が早く出る結果となった。


3)水平格子間隔1kmの実験
 4日の事例について、RSMに NHM5(非静力学モデル・水平格子間隔5km)をネストし、さらにNHM5に水平格子間隔1kmのNHM1をネストする、「二重入れ子」のモデルを作り、予報実験を行なった。

 10時……実況ではエコーはないが、山岳や平野に降水を再現(新たな課題に)
 14時……山岳部の降水を良好に再現
 18時……降水域の南東進を良好に再現

 NHM1による降水時間変化は、午前中の立ち上がりこそ過大であるものの、降水域・強度ともにピークがNHM5より後退し、実況に近づいた。

 降水開始時刻が早い理由を探るため、モデル風と実況アメダス風を比較した結果、モデルは(越後平野の)海風を強めに予報していることが分かった。これは、モデル下層の気層が不安定だと、モデルの地上風系が強めに出ることがあることからもたらされているものと見られる。
 また、モデルの地表面過程に問題があり、地表面からの蒸発量を過大に見積もっている可能性があることなども原因の一つと考えられる。


4)まとめ
 非静力学モデルは、夏季の熱雷によってもたらされるようなメソスケールの降水の予報に対してもある程度有効であることが示された。今後の課題としては、降水の時間的変化や、降水量の精度向上の為のモデル内の物理過程の改善といった点が挙げられる。
<話題提供3>
予報官の役割…北海道で考えたこと

 
永沢義嗣 会員(気象庁予報課)
1)はじめに
 平成12年3月31日13時07分、北海道有珠山が23年ぶりに噴火した。話題提供を頂いた永沢さんは、まさにこの日、札幌管区気象台の予報課長の辞令を受け、北海道に向かった。前回、昭和52年の有珠山噴火も札幌管区気象台予報課で経験している永沢さんが、今回の噴火災害と向き合う中で考えた災害時の気象情報のあり方についてお話し頂いた。


2)平成12年(2000年)有珠山噴火の概要
 平成12年3月28日 有珠山周辺で地震回数が増加
          臨時火山情報第1号発表
          伊達で有感
          低周波地震発生
     3月29日 緊急火山情報第1号
          「予知連見解 数日以内に噴火の可能性」
           →噴火前の緊急火山情報発表は初のことで、事実上の噴火予知に成功
          地震回数激増
          伊達で震度4
     3月30日 緊急火山情報第2号「地殻変動確認」
          地震回数が減少
           →有珠山は噴火数日前から地震が発生し、回数が激増した後、減少に転じるとまもな
            く噴火するという特性がある。減少が見られ始めた時点で、噴火が迫ったと緊張が
            走る
     3月31日 地震回数はなおも減少を続ける
          緊急火山情報第3号「地殻変動継続」
          13時07分 噴火(西山西方火口群)
     4月1日 金比羅山からも噴火(金比羅山火口群)

3)気象庁の対応
 今回の噴火災害で特筆すべきなのは、政府の災害対策本部が初めて現地に置かれたことである。中央省庁から責任を持って判断できる人間が現地入りしたことで、状況判断や活動をスムーズに進めることが出来る体制が取られた。

3-1)ヘリコプター監視
 自衛隊のヘリコプターに火山専門家や気象庁職員が搭乗。上空から火山活動を監視することで、避難指示地域内での活動(オペレーション活動)を支援した。オペレーション活動は、ホタテ養殖作業や住民の避難・一時帰宅、降灰除去、災害状況調査等、多岐に渡ったが、ヘリの飛行においては、「現在かかっている霧はいつ晴れるのか?」「雲の高さはどのぐらいか?」など、極めてシビアな情報が求められた。

3-2)気象情報の提供と活用
 札幌管区気象台では状況の進展に合わせて、4月14日に予報課内に「有珠山対応チーム」を設営した。メンバーは8人で、

  ・有珠山周辺の時系列天気予報の作成
  ・降灰対策支援のための上空風予測資料の作成
  ・泥流対策支援のための降水量予測資料の作成
  ・各関係機関に対する予報支援資料等提供

などの情報を、防災関係機関や市町村、現地災害対策本部に提供する体制を整えた。また、注意報・警報の発表基準変更の検討も行なった。

 発表情報は「有珠山噴火に関連する気象情報」とし、「見出し」と「本文」という体裁を取るなど、「何を伝える情報か」が一目で分かるような工夫を続けた。

<具体例>有珠山上空の風時系列予報
 降灰対策に役立ててもらうことを考え、750hPaと850hPaの風向・風速を24時間先まで、3時間ごとの予報を発表した。

3-3)泥流対策
 降灰が降水によって泥状になって流れ下る「泥流災害」への対応が重要になってきた段階で、札幌管区気象台と室蘭地方気象台では、土砂災害対策専門家チーム(旧建設省砂防部など)と連携して、北海道現地災害対策本部の泥流対策に加わった。「気象台」と「砂防」は、これまで縦割り行政の壁に阻まれ、連携の意識が十分でなかったが、有珠山災害では連携をある程度実現することができた。
 また、札幌管区気象台と室蘭管区気象台では、8月11日の現地災害対策本部の解散後、泥流警戒に特化した「有珠山の泥流に関連する気象情報」の発表を始めた。「定時」と「臨時」の2種類の情報の発表を続けている。


4)気象情報のあり方と予報官の役割
 こうしたきめ細かい気象情報は、防災機関のニーズにかなり合わせたものになっていたと評価された。各防災機関からの要望とは

  ・警報発表時間帯を示して欲しい
  ・どこで多く降るか市町村単位で示して欲しい
  ・降水実況と2〜3時間先の予報が欲しい
  ・警報は速やかに解除し、解除の時間帯を示して欲しい

といったものである。どのような情報を出していけばよいのか、常に頭を悩ませてきた。

 こうした中で考えた「予報官の役割」は、データを分析して予報を出すだけではダメだということである。「危機管理」の重要な情報の一つとして、火山災害・原子力災害・山林火災・地震・油流出事故などの災害時に何が出来るのか、防災関係機関への支援として何が求められ、何が出せるのか、こうした状況への対応力が求められていることを感じている。

 

     2002年(H14)9月21日 第21回東京支部会合

<話題提供1>
2002年夏 日本の天候

 
遠藤洋和 会員(気象庁気候情報課)
 今年夏の天候の特徴を、データを元に読み解いて頂きました。また現在発現しつつあるエルニーニョ現象についても、現象面と発生原因、その影響などをまとめて頂きました。


1)日本の今年夏平均
 日本の6〜8月の気候統計値は次の通り。
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 | 夏平均 | 気 温 | 降水量 | 日照時間 |
 |6〜8月|平年偏差℃| 平年比% | 平年比% |
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 | 北日本 | −0.4 | 131 |  84 |
 | 東日本 |  0.9 |  97 | 114 |
 | 西日本 |  0.7 |  69 | 108 |
 |南西諸島|  0.2 |  97 |  86 |
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 ●気温………東・西日本で高温。北日本は北ほど低温傾向
 ●降水量……北日本で多雨。西日本は少雨
 ●日照………北日本と南西諸島で寡照(日照少)
       東・西日本は多照(日照多)
 ●その他……7月に台風が本土に5個接近し、うち2個(6・7号)が上陸


2)6月の天候
 次に各月毎に見ていく。まず6月。
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 | 6月 | 気 温 | 降水量 | 日照時間 |
 |    |平年偏差℃| 平年比% | 平年比% |
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 | 北日本 | −0.3 |  85 | 108 |
 | 東日本 |  0.0 |  76 | 116 |
 | 西日本 |  0.7 |  62 | 133 |
 |南西諸島|  0.4 |  78 |  75 |
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 ●気温………西日本・南西諸島で高温
 ●降水量……全国的に少雨
 ●日照………南西諸島で寡照。東・西日本は多照


3)7月の天候
 次に7月。
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 | 7月 | 気 温 | 降水量 | 日照時間 |
 |    |平年偏差℃| 平年比% | 平年比% |
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 | 北日本 |  0.3 | 175 |  74 |
 | 東日本 |  1.9 | 135 | 110 |
 | 西日本 |  1.1 |  82 |  92 |
 |南西諸島| −0.3 | 176 |  79 |
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 ●気温………東日本を中心に高温。北日本・南西諸島は平年並
 ●降水量……北・東日本・南西諸島は多雨
 ●日照………北日本と南西諸島で寡照


4)8月の天候
 そして8月。
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 | 8月 | 気 温 | 降水量 | 日照時間 |
 |    |平年偏差℃| 平年比% | 平年比% |
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 | 北日本 | −1.2 | 126 |  68 |
 | 東日本 |  0.8 |  73 | 117 |
 | 西日本 |  0.4 |  60 | 103 |
 |南西諸島|  0.3 |  62 | 102 |
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 ●気温………北日本で低温。東日本・南西諸島は高温
 ●降水量……北日本で多雨。東日本以西は少雨
 ●日照………北日本で寡照。東日本は多照


5)真夏日・熱帯夜日数(6〜8月)
 最高気温が35℃以上(最近では「酷暑日」との呼び名も)、真夏日日数ともに平年を上回ったところが多く、大阪では6〜8月の真夏日日数が70日と1994年と1位タイの記録。
 熱帯夜日数は、浜松・三島・舞鶴・彦根・姫路・延岡などで記録を更新した。


6)梅雨
 ●梅雨入り……九州から本州にかけて、6月10・11日にほぼ一斉に梅雨入りした。九州南部では平年より10
        日程度遅れた
 ●梅雨明け……九州南部で平年より約1週間遅い →東日本では梅雨入り・明けが明瞭だった
 ●降水の特徴…6月は太平洋側中心。7月は日本海側中心(7月の太平洋側は主に台風)
 ●降水量………九州南部と東北〜北陸で多く、そのほかの地域は平年並〜少ない


7)台風
 8月末までに17個発生した(平年は14.1個)。うち本土に接近したのが8個(平年 3.1個)と記録的な多さだった。発生は全体的に平年より東よりの位置だったことも今年の特徴。

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8)循環場(500hPa高度場)
 気候の特徴は、500hPa高度の平均の場を見ると良く分かる。

 8-1)夏平均(6〜8月)
  ●太平洋高気圧が日本の南東海上で平年より強い
  ●ユーラシア大陸で等高度線の蛇行が激しく、規則的に正偏差域と負偏差域が並ぶ
  ●バイカル湖付近がリッジ場になっていた
  ●オホーツク海から中国東部はトラフ場だった

 8-2)6月
  ●バイカル湖付近でリッジ場
  ●日本域はトラフ場
  ●太平洋Hの張り出しは弱い

 8-3)7月
  ●太平洋Hの西への張り出しが弱い反面、東海上では強い(Hの軸が北偏)
  ●朝鮮半島付近、オホーツク海付近に弱いトラフ場

 8-4)8月
  ●バイカル湖付近でリッジ場
  ●オホーツク海〜朝鮮半島にかけてトラフ場
  ●亜熱帯Hの西への張り出しが強い

 8月の日本付近の500hPa高度場やジェット、対流活動を平年と比較すると、バイカル湖付近にリッジ、中国東部にトラフが形成されていたことが分かる。また、平年ではわずかの差で図上には現れない5880m線(太平洋Hの目安)が、今年は日本の南東海上に描かれ、平年より太平洋Hが強かったことがうかがえる。このため、朝鮮半島北部〜北海道〜日本東方海上の傾圧性が強まり、ジェットが強化され、前線活動が活発となった。これが北日本の寡照・多雨をもたらしていたと考えられる。

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9)エルニーニョの状況
 エルニーニョ監視海域(4°N〜4°S、 150°W〜90°Wの長方形の海域)では、7・8月と海面水温が基準値よりも 0.7℃高い状態になっている。また、エルニーニョ現象の認定に使用される基準値偏差の5か月移動平均値も4月以降、+0.5℃以上が続いており、エルニーニョ現象が発生しているとみてよい状況が続いている。
 なお、気象庁の基準では「エルニーニョ監視海域の海面水温偏差の5か月移動平均値が6か月以上続けて+0.5℃以上となった場合をエルニーニョ現象」としている。5か月移動平均なので、8月までの観測値を用いて計算されるのは6月の値(4〜8月の平均)であるように、さかのぼる形でエルニーニョ現象であると認定されることになる。

 OLR偏差(=外向き長波放射の平年偏差……雲の量の多寡を反映する)で見ると、エルニーニョ現象の発生の良い指標となる中部太平洋の負偏差(対流活動が活発化)が強化しており、このことからもエルニーニョ現象の発生が読み取れる。


10)エルニーニョ現象の影響
 エルニーニョ現象発生時に特徴的な天候として、「日本域の低温・多雨」「インドの高温」「南米北部の高温・少雨」「ヨーロッパ南部の多雨」「北米西部の多雨と東部の少雨」などが指摘されている。
 これを今年の夏の天候分布と比較すると、一致するところもあるが、あまり特徴的に現れているとは言えないパターンであり、エルニーニョ現象の影響がどの程度反映しているかははっきりしない。


11)エルニーニョ現象の今後の見通し
 中部〜東部太平洋の海面水温は上昇傾向で、南方振動指数(=SOI ……(タヒチの海面気圧)−(ダーウィンの海面気圧)を規格化)は低下傾向が続いている。また、夏に入って、対流活動の活発な領域が日付変更線付近まで広がってきた。
 このままの状況が続けば、2002年春にさかのぼってエルニーニョ現象であると認定されることになりそうで
ある。

・通常は秋〜冬にエルニーニョ現象のピークを迎える。
・海面水温の高い状態は少なくとも今冬いっぱいはつづく見通し。
・今年の夏はエルニーニョ現象の日本域への影響はほとんど見られなかった。
<話題提供2>
真夏の関東トワイライトゾーン

 
渡辺保之 会員
 この夏、関東で見られた「ちょっと気になる気象現象」を3題、ご紹介しました。研究発表というより、エンターテインメントに走った感、無きしもあらず……(ご覧になった方はお分かりですが)。


1)その1「夜な夜なうろつく低気圧」
 関東地方の夏季夜間、小規模な低気圧性循環が発現することがある。この循環を、アメダス風を中心に追跡してみた。

<実例1:2001年7月13日夜>----------------------------------------------------------------------
 1年前の例であるが、この事例では、東京〜埼玉都県境に発生した低気圧性循環が停滞後、北東進して明け方に消滅した。

 ○13日15時……埼玉東部〜栃木南部〜茨城まで相模湾系の海風が進入
 ○ 〃 16時……海風が埼玉・栃木県境〜茨城中部まで後退
        栃木北部〜茨城北部に北東風系卓越
 ○ 〃 17時……海風のフロントは前時間とほぼ同じ
        栃木〜茨城北部の北東風系が強化
 ○ 〃 18時……海風のフロントが若干後退
        栃木〜茨城北部の北東風系が栃木南部で特に強化
        海風と北東風系の間にシアライン形成
 ○ 〃 19時……海風のフロントが東京中部〜茨城・千葉県境まで後退
        栃木南部の北東風系が群馬南部〜埼玉北部に進入
        群馬中部に北風系が出現
 ● 〃 20時……海風のフロント近辺、東京・埼玉県境(所沢〜清瀬付近)に低気圧性循環が発現
 ● 〃 21時〜23時
      ……低気圧性循環は東京・埼玉県境でほぼ停滞
 ●14日0時……低気圧性循環は東京・埼玉東部県境(草加〜八潮付近)に東進
 ● 〃 1時……低気圧性循環は東京・千葉県境(松戸付近)に東進
        低気圧性循環の北側の風が弱化
 ● 〃 2時……低気圧性循環は千葉西部(流山付近)に北進
        しかし北〜西側に無風域が広がり、循環は不明瞭化
 ● 〃 3時……低気圧性循環は茨城南部(牛久付近)に北東進
 ● 〃 4時……低気圧性循環は解消しながら茨城南部(土浦付近)に北進
 ○ 〃 5時……低気圧性循環は解消
 ○ 〃 6時……東京〜茨城南部に弱いシアライン
 ● 〃 7時……茨城南西部と東京・千葉県境に弱い低気圧性循環か?
 ● 〃 8時……東京・千葉県境と東京・神奈川県境付近に弱い低気圧性循環か?
 ● 〃 9時……東京・千葉県境付近に弱い低気圧性循環か?

 午前0時の気温分布を見ると、東京都心のヒートアイランドが北東方向、東京・埼玉・千葉の都県境方向に伸びている様子が見られた。
 以上からこの事例では、発生や移動に「海風フロントのシアライン」と「地上の高温域」が関連していると考えられる。

<実例2:2002年7月31日夜>----------------------------------------------------------------------
 ●31日18時……群馬南部(藤岡南方)に低気圧性循環が認められる
 ● 〃 19時……埼玉北部(寄居付近)に移動
 ● 〃 20時……不明瞭ながら埼玉中部(熊谷西方)に南東進
 ● 〃 21時……埼玉中南部(幾都川付近)に南進
 ● 〃 22時……埼玉中部(川越付近)に東進
 ● 〃 23時……埼玉の周辺部で循環が明瞭化・中心付近は無風域に
 ●1日0時……東京・埼玉都県境周辺部で循環が明瞭・中心付近は無風域
 ● 〃 1時……東京多摩東部を中心とする循環が周辺部で明瞭で前時間からは南東進
        中心付近は無風域
 ● 〃 2時……東京多摩東部を中心とする循環が周辺部で明瞭
        中心付近は無風域
 ● 〃 3時……埼玉東部を中心とする循環が周辺部で明瞭で前時間からは北東進
        中心付近は無風域
 ● 〃 4時……東京・埼玉都県境を中心とする循環が明瞭で前時間からは南東進
        中心付近の無風域が狭化
 ● 〃 5時……埼玉・千葉県境を中心とする循環が周辺部で明瞭で前時間からは北東進
        中心付近の無風域が再び広がる
 ● 〃 6時……埼玉・千葉県境を中心に若干不明瞭な循環
 ● 〃 7時……埼玉・千葉県境を中心に不明瞭な循環
 ● 〃 8時……千葉西部を中心に不明瞭な循環
 ○ 〃 9時……低気圧性循環はほぼ消滅

 この事例で低気圧性循環は、埼玉北西部から南東進し、千葉北西部で消滅している。興味深いのは、中心付近ではほぼ無風なのに、周辺部で中心に吹き込むような風系が認められたことである。
 同じような例は、8月6日夜〜7日朝にも見られ、このときは群馬南部から埼玉〜東京を通って、東京湾まで南東進した。

 こうした低気圧性循環は

◆夜になってから出現  ◆明瞭な低気圧性循環  ◆関東を南東進  ◆早朝には不明瞭化

といった特徴がある。

 会合の質疑応答の中で、東京大学海洋研究所の吉田優さんから、こうした低気圧性循環は大気汚染観測などで検出され、発見者の名前を取って「原田渦」とも呼ばれているとの説明を頂いた。

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2)動かない風向計
 東京の風向が、8月7〜11日にかけて、ほとんど「南西」から動かなくなるという現象が見られた。

 2-1)東京の風向
  ●8月7日18時       南
     7日19時       南南西
     7日20時〜8日12時  南西  ……16時間
     8日13時       南南西
     8日14時〜11日10時  南西  ……68時間
     11日11時       南南西
       12時〜15時    南西  ……3時間
       16時       南南西
       17時〜19時    南西  ……2時間
       20時       南南西
       21時       南東

 特に9・10日は、一日中「南西」風が吹き続けるという状況だった。

 2-2)総観場
 日本付近の総観場は、日本海から東北地方を横切って前線が停滞し、日本の南東海上にはサブハイが北緯30°線よりも北偏して位置しているという形が続いた。この「総観場の固定」が「風向計の固着」をもたらした第一の原因と考えられる。

 2-3)東京は南西風が吹きやすいか?
 この「南西風固着」において、地形や地物の影響はないのだろうか。地図を見ると、大手町の気象庁から見て南西には皇居の杜が広がっている。一方、北側や東側には中高層のビルが立て込んでいる。この配置によって、南西風が吹きやすいのではないかとも考えられる。
 しかし、東京の月ごとの卓越風向を見ると、

  1月 北北西   5月  南   9月  北
  2月 北北西   6月  南   10月 北北西
  3月 北北西   7月  南   11月 北北西
  4月 北北西   8月  南   12月 北北西
              (平成14年版理科年表より)

となっており、特に南西風が吹きやすい傾向はないことが分かる。

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3)くねる停滞前線
 2)の南西風固着は、8月11日夜、関東地方に北東からの冷涼な風が進入することで解消した。冷涼風の領域は次第に南下し、この領域に入ると、風向が北東〜東北東に変わり、気温も5℃以上低下した。
 この冷涼風が進入した後の 1200ZのASASを見ると、非常に特徴的な前線表現がされている。

 3-1)ASASの前線表記
 081200Z のASASでは、秋田沖の1012hPa の低気圧からの前線が、酒田付近からほぼ南に延び、東京付近で東に急に向きを変え、銚子付近から東海上に出る「ι」のような形で描かれている。
 今村明男氏作成の「相当温位入りプロット図」で地上の温位解析をしてみても、ほぼ同じ位置に前線が走っていることが確認できた。

 この前線の形は、永沢義嗣氏著「天気図の散歩道」で「裏口寒冷前線(=東から西に進行し、まるで『裏口』からやってくるかのような振る舞いをする寒冷前線)」として紹介されているものによく似ている。「天気図の散歩道」では、この裏口関連前線はヤマセの吹き出しを表現しているとされており、今回の事例も、千島列島付近の高気圧からの北東冷涼風ということで、同じ種類のものであると思われるが、天気図上で描かれるのは珍しい事例ではないだろうか。
<話題提供3>
東京支部の正式支部化に向けて
 
 
渡辺保之 会員

 

     2002年(H14)12月14日 第22回東京支部会合
 

<話題提供1>
地球シミュレータ計画について

 高原浩志 会員(NEC)
1)地球シミュレータとは
 大規模数値シミュレーションは、「理論」と「実験」をつなぐもう一つの手法として、近年その重要性がますます高まっている。特に実験や観測が難しい「超長時間現象」や「超短時間現象」で威力を発揮することが期待されている。
 例えば地球環境変動の諸現象(異常気象・地殻変動等)は、極めて局所的な現象から、全地球規模の海洋・大気大循環まで、多種多様なプロセスが複雑に絡み合っている。このため、その未来を観測によって定量的に予測することは不可能であり、また理論的予測も極めて難しい。そこで、計算機を用いて諸現象をよりリアルに再現(シミュレーション)ことが最も有力な手段となるのである。

 「地球シミュレータ・プロジェクト」は、一言で言えば「コンピュータ内に『仮想地球』を創る」チャレンジである。そして従来の「バーチャル」なシミュレーションから、「リアリティ」あるものへの質的転換でもある。
 具体的課題として

 ・気候変動予測の高信頼化  ・地球温暖化
 ・エルニーニョと冷夏、暖冬 ・台風、集中豪雨、流出オイル拡散等
 ・地殻変動の解明      ・地球内部のしくみと挙動
 ・日本付近の地殻、マントル挙動の解明  ・地震発生過程の解明

といったテーマが考えられている。

 例えば、地球温暖化シミュレーションにおいて、雲の増加が、地球を毛布のように包み保温し、温暖化を促進する「保温効果」と、太陽からの入射光を反射し、温暖化を抑制する「日傘効果」の、どちらにより大きく寄与するか、まだよく分かっていない。こうした定量的な評価の向上を図ることができる。
 また計算能力が飛躍的に向上することで、シミュレーションの質的向上を図ることも出来る。例えば、シミュレーションのメッシュを平面上で2倍にしようとすると、3次元で2×2×2=8倍、さらに時間積分を細かくする必要が生じ、最終的には10〜20倍の計算量になる。こうした要請にも、地球シミュレータは応えうる能力を有している。


2)地球シミュレータのスペック
 一般的に高性能計算機には「ベクトル計算機」と「スカラ計算機」の2種類がある。「ベクトル計算機」は、ベクトル処理に基づく設計で最高性能を引き出すもので、「スカラ計算機」は、安価なマイクロプロセッサを多数連結して構成するシステムである。

 「地球シミュレータ」は「ベクトル型スーパコンピュータ」であり、「互いに絡み合った大規模な情報を同時処理する必要がある現象に関するシミュレーションに最適な計算機で、気象・気候分野では「スカラ計算機」に比べて数倍以上効率的な処理が可能である。

 具体的性能は
<計算性能>
●ピーク性能……40.96TFLOPS(1秒間に約40兆回の演算)
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  ・ FLOPS(フロップス)                 ・
  ・  =計算機の演算能力を表す単位で、1FLOPS は、1秒 ・
  ・   間に1回の演算をする能力を示す         ・
  ・                           ・
  ・  パソコン=1GF(10億演算/秒)          ・
  ・  スパコン=100GF(1000億演算/秒)         ・
  ・  地球シミュレータ= 40TF =パソコンの4万倍   ・
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

●現時点(平成14年12月現在)での達成性能
  ……35.86TFLOPS → 世界最高速
           → 理論値の87.5%という高効率で稼働
●大気大循環モデルプログラム(AFES)を用いた実効性能
  ……26.58TFLOPS → 開発目標の5TFLOPSを大きく上回った

<記憶容量>
●10TB(テラ・バイト)……漢字で5兆文字相当

<計算機接続>
●多段クロスバスイッチ……多数の計算機間のデータの高速転送が可能

 こうした性能は、世界最高速の高集積LSIプロセッサや、専用基盤の開発など、最先端のハードウェア技術に支えられて達成したものであることを特記したい。

 横浜市金沢区の「地球シミュレータセンター」には、5120台のプロセッサが、ノードと呼ばれるコンピュータ 640台に収容されて接続されている。床下に配置されている接続ケーブルは 83200本、総延長2400kmにも及ぶが、プロセッサの性能が向上すると信号伝送速度が重要な要素となり、ケーブル長が制限されることから、効率的に機器が配置されている。


3)地球シミュレータの応用ソフトウェア
 「地球シミュレータ」で稼働するソフトウェアには次のようなものがある。

 ・気候(大気)モデル……AFESなど
  (AFES=東大気候システム研究センターと国立環境研究所が開発したモデルをベースに、地球シミュレー
      タ向けにチューニングしたモデル)
 ・海洋モデル……プリンストン大学MOMなど
 ・大気−海洋−海氷カップリングモデル
 ・固体地球モデル

 AFES気候モデル(Kuo雲物理スキーム・約10km格子間隔)では26.6TFLOPS、理論最大性能の64.6%という非常に高い効率での稼働に成功しており、気象・気候アプリケーションでは世界最高速である。


4)地球シミュレータの評価
 「地球シミュレータ」は、各方面から高い評価を受けつつある。具体的には、実際のアプリケーションで高い性能を実証し、研究ツールとして高い潜在能力を有することを示したことや、予定通りの日程で稼働を開始させたこと、また、アメリカの同様のプロジェクトが核開発等にも使用されるのに対し、平和目的に利用されていることなどが評価されている。
 着実に実績を挙げつつある「地球シミュレータ」は、世界、特にスーパコンピュータの分野で世界最先端を争うアメリカに大きな衝撃を与えた。TIME紙は「2002年最高の発明品」として「地球シミュレータ」を挙げ、高性能計算機の分野で最も権威がある「ゴードン・ベル賞」においても、「並列コンピュータを実用的な科学技術計算に応用し、優れた成果を挙げた」として2002年の最高性能賞など3賞を受賞している。
<話題提供2>
Excelで楽しむ館野の気温

 関 隆則 会員
1)東京とつくば(館野)の気温
 まず、東京・つくばの地上気温を比較する。解析は2002年11月14〜30日について、地上気象観測(3時間毎の観測値)を使用した。ここから次のようなことが読み取れた。

 ・09JST の気温は、その日の平均気温に近い
 ・しかしつくばで放射冷却が強い日の 09JSTの気温は、その日の平均気温を上回る
 ・東京の夜の気温降下は、つくばより3時間以上遅れる日がある
   →東京のヒートアイランドが影響か

 気温の日変化をレーダーチャートにして見るのもおもしろい。


2)地上気温と850hPa気温の関係
 次に館野の地上気温と850hPa気温の関係を調べた。しかし09JST、21JST のデータとも、相関は低く、850hPa気温から直接、地上気温を予想することは難しいことが分かった。

 そこで、地上気温と850hPa気温の差を取ってみると、09JST、21JSTのデータとも、850hPa気温が高いほど地上気温との差が小さくなるという一定の相関関係が浮かび上がった。しかし、21JST のデータの中には、気温差がほとんどない日も見受けられた。
 気温変化を Excelの機能にある多項式近似で解析すると、n=6で、おおよそ2日周期の変化が表現され、そのグラフからも「850hPa気温」と「地上気温と850hPa気温の差」に逆相関があることが読み取れる。


3)まとめ
 今回の解析で判明したことをまとめると、次の通り。

<東京地上>
●気温降下が 21JST以降にずれこむことがある →ヒートアイランド現象の影響か
● 09JST……日平均気温に近い
    ……放射冷却が効いている日は日平均気温を上回る

<地上−850面気温差>
● 09JSTの「地上と850hPaの気温差」と「850hPa気温」は相関大
●「地上と850hPaの気温差」は0〜12℃に及ぶ
●「地上と850hPaの気温差」大は「500hPa東谷」「寒気移流」
●      〃      小は「500hPa西谷」
<話題提供3>
東京支部の正式支部化について  

 渡辺保之 会員

 

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