2001年 東京支部会合 概要

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     ◆2001年(H13)3月17日 第16回東京支部会合

<話題提供1>
波浪の基礎知識と予報技術

 高野洋雄 会員(気象庁気象研究所)
 高野さんにはご専門の立場から波浪予報に関連した初歩的な事項についてお話して頂きました。

1)波浪の基礎知識
 ●波浪のスケール
  波浪予報で取り扱う地球上で発生する波は、その相対的なエネルギーが最も大きい重力波(周期1〜30
  秒)である。
 ●波浪の諸定義
  波高H、周期T、波向D、波長L、周波数f、波速c、波形勾配S、波令β、波数k、角周波数ω
  が定義される。このうち、波形勾配Sと波令βは波浪独特の概念で、波形勾配Sの理論上の最大は 1/7、
  観測上では1/10とされている。つまり、波高には限界があるということ!。

 波浪(ocean waves)は
  「風波(wind sea):風からエネルギーを受けて発達している波のことで、不規則で波形は尖っている」と
  「うねり(swell) :風浪が風からのエネルギー供給が受けなくなり、粘性等で減衰しながら伝播する波の
           ことで、周期的で正弦波に近い」
 に分類される。

 波浪表現の重要なものとして以下の3つがある。
 ○有義波:1点においてある時間(実際の目視観測では20分間)に観測したN個の波(実際には200〜300個
  の波が観測される)のうち、波高の高い方からN/3個までの波について、周期・波高それぞれを平均し
  たもので、「1/3最大波」とも云う。
 ○水深hと波長Lが(h>L/2)または(h<L/25)という条件では、位相速度C、波長L、群速度Cg
  についての理論式が簡単な式で表わされ、前者を「深水波」、後者を「浅水波」と云う。
 ○海面状態は不規則波動であるが、正弦波の重ね合わせで表現でき、
   η(x)=Σ(An * sin(nx)+ Bn *  cos(nx))

 その成分波である正弦波からエネルギー密度(スペクトル)を計算でき、波浪推算(数値モデルを含む)には最も基本となる物理量となる。なお、全体のエネルギーは周波数スペクトルと方向スペクトルを合成したものになる。また、波浪の標準スペクトルとしては、ピアソン・モスコビッツスペクトル(風速によって定まる風浪の飽和スペクトル)と JONSWAPスペクトル(成長過程にある風浪を考慮したスペクトル)がある。

 ●風波の発達
  風波が発達するための3要素

   「風速」:これが大きいほど発達する、波高はおおよそ風速の二乗に比例
   「吹走距離」:ほぼ一様な風が吹いている風上距離のこと、これが大きいほど発達する
   「吹続時間」:ほぼ一様な風が吹き続ける時間、これが長いほど発達する

  があるが、波の発達には限界があり、これら3要素で決定される上限値の中で最小の値が波の発達できる
  最大値である。

 ●うねりの伝播と減衰
  うねりは群速度Cgで伝播しながら減衰していくが、その要因は以下のとおり。

   分散:周期によって波の群速度が異なり、各成分が分離する
   粘性:特に高周波数成分で著しく、長周期のうねりほど遠くへ伝播する
   角分散:波のエネルギーが±90度の範囲に伝播
   砕波:風や他の波との衝突などによるエネルギーの散逸

  また、擾乱源での波の周期と減衰距離から、うねりの波高・周期・到達時刻を簡単に算出できる便利なグ
  ラフがある。

 ●波の変形(浅海効果・海流の影響)
  波浪はふつう深水波として扱われるが、水深が浅くなるにつれて次第に浅水波としての性質を帯びてくる
  (浅水変形)。また、岬の先端に波向線が集中するなどの海底地形による波の屈折。さらに、海流などの
  強い海域では、その影響により波長や波高が変化する(いわゆる潮波=しおなみ)


2)波浪の予測技術
 気象庁の数値予報では利用されなくなったが、波浪についての観測や理論的な研究が進み、それを基にして最初に出来上がった波浪予測法が「有義波法」で、その研究者達の名前の頭文字を取ってSMB法(Sverdrup and Munk 1947, Bret-schneider 1952,1958)とも呼ばれ、簡便であり現在でもその利用価値は高い。
それはグラフとして与えられており、海上風・吹走距離・吹続時間などのパラメータを用いて有義波の波高と周期を簡単に計算できる。
 また、風速と吹走距離から有義波の波高と周期が計算できるウィルソンの公式(Wilson 1961,1965)もある。
 一方、波のエネルギーをスペクトルに分解し、そのスペクトル変化に基づいて計算する「スペクトル法」も開発され、これは複雑な風の時間変化や空間分布内での波浪変化、特にうねりの表現に優れている。この手法では P.N.J法(Pierson,Neumann and James 1955)によるものが最初だったが実際に利用された期間は長くなかったものの、その概念は数値波浪モデルに利用されている。
<話題提供2>
冬型気圧配置下における東京地方の風向風速の特性について

 加納良真 会員
 加納さんからは第15回会合に引き続いて、東京地方の気象特性について話題を提供して頂きましたが、今回は気象予報士会MLでも話題になりました「シアーライン」にも関連する風向風速についてです。

 冬季季節風が日本列島を吹走する際に、その風向に対して地形的に谷間や鞍部などにより、冬季季節風の通り道になっているところが日本全国に幾つかあります。
  −−−例えば、津軽海峡、福島県会津地方〜栃木県、群馬県谷川山地の鞍部、若狭湾〜伊勢湾〜静岡県を
         経て関東南岸にかけて
 関東地方では「栃木県や群馬県谷川山地の鞍部を吹き抜ける北〜北西風」と「静岡県を経て関東南岸に吹き込む西〜南西風」がぶつかり合い、シアーライン−−−房総不連続線、駿河湾不連続線、宇都宮不連続線など
を形成しています。このシアーラインを挟む気流同士の強弱により、それが関東平野に位置したり、遠州灘沿岸に移動したりしています。

 そこで、冬型気圧配置を等圧線走向により次の3つのタイプに分類し、
   Aタイプ:等圧線走向が北〜南方向
   Bタイプ:等圧線走向が北西〜南東方向
   Cタイプ:等圧線走向が西〜東方向
 東京地方で冬季季節風がどのような吹き方をしているかを調べてみました。


1)Aタイプ(等圧線走向が北〜南方向)
 23区大手町、多摩地区八王子とも北〜北北西風になり、3タイプの中で最も広範囲で強風となりやすい。なお、東京(気象庁)と八王子の風速比は、

    東京(気象庁):八王子=1: 0.9〜1

 なお、下記の条件で東京(気象庁)で風速 10m/s以上(羽田で 15m/s以上)を観測する。

   ●気圧傾度が緯度5度につき10hPa以上
   ●館野700hPaと850hPa風向が北〜北西で両高度の風速平均が35knot以上

 また、シアーラインは神奈川県西部〜伊豆大島付近〜房総半島沖にある。


2)Bタイプ(等圧線走向が北西〜南東方向)
   ●館野700hPaと850hPaが北西風の場合
    東京23区、多摩とも北西風となり、強風となる場合もある。また、シアーラインは湘南沖にある。

   ●館野700hPaと850hPaが西風の場合
    東京近隣の関東近県が軒並み強風となっているものの、23区、多摩ともに強風となり難い。この際、
    風向は、北寄りとなる地点、南西となる地点が混在している。
     −−東京近隣の関東近県で強風注意報が発表されていますが、東京地方には発表されていません。
       これは、シアーラインが東京付近に掛かっているからと考えられます。


3)Cタイプ(等圧線走向が西〜東方向)
 このタイプの場合、館野700hPaと850hPaで西〜南西風が多い。東京地方は北西、日中は南西風になる。当該風向が南分をおびるほど、23区の沿岸部中心に、日中南西風が強くなりやすい。また、シアーラインは関東平野の中央部〜北部に移動する。
<話題提供3>
気象衛星ひまわり雲画像でみつけた2つの不思議な雲画像

 渡辺保之 会員
 会合の残り時間に東京支部世話役の渡辺さんから「アトラクションとして(これは本人の弁です)」、気象衛星ひまわり雲画像を見ていて発見した不思議な雲画像2事例について、当該雲画像をHPからダウンロードされたものを動画で見せて頂きました。

 

     2001年(H13)6月9日 第17回東京支部会合

<話題提供1>
桜の開花気温

 大門禎広 会員(栃木県気象予報士会)
1.はじめに
 毎年気象庁から発表される桜の開花日は、関東から西の太平洋側では、ほぼ一斉に咲き始めるようなイメージで発表されています。一方、桜は1日の平均気温が10℃になると咲き始めると言われており、もしそうだとすると、上記の理由から関東から西の太平洋側では気温がほぼ同じということになってしまいますが、実際はそうなっていません。そこで、上記のロジックの矛盾について解き明かそうと思い、桜の開花気温について調べてみることにしました。

 桜が開花するまでのステップは、おおよそ次のようなものだそうです。

    花芽の形成(夏)--->休眠(秋〜冬)--->成長(春)--->開花
               ▲
           一定期間の低温により
           休眠打破

 現在、気象庁では予測式により桜の開花予想を発表していますが、休眠打破の状況を開花予想に反映するため、チルユニット法によって補正するそうです。また、東北地方や北海道など寒い地方では、この補正をしなくても、あまり誤差は出ないそうですが、暖かい地方ほど休眠打破が十分に行われないため、開花予想に誤差が出るそうです。そこで、前記の「桜が開花するまでのステップ」の中で、「一定期間の低温により休眠打破」とある部分の「休眠打破が十分に行われる気温っていったい何℃なんだろう?」ということも疑問でした。

(注)ここでの調査は、ソメイヨシノを桜の開花予想の標準木としている気象官署のデータを使っています。


2.最寒日の気温と平年の桜の開花日の気温との関係について
 まず、最寒日とは日平均気温が一年で一番低い日のことです。日平均気温の平年値を使って、最寒日の気温と平年の桜の開花日の気温との関係について調べてみたところ、最寒日の気温が3℃付近及びそれを下回る地点での桜の開花気温は10℃前後(平均 9.8℃)で、ほぼ一定していました。
 しかし、最寒日の気温が3℃を超えた地点については、桜の開花気温が最寒日の気温に比例して高くなる傾向が認められました。
 そこで、最寒日の気温が3℃以上の地点だけで一次回帰式を求めた結果

    y = 0.6775 x + 7.6913  x:最寒日の気温  y:桜の開花日の気温

が得られました。


3.1998年から2001年までの4年間について
 今年を含めた最近4年間の気温と桜の開花日のデータを使って、年別に調べてみたところ、前項の結果と同じような、最寒日の気温が3℃付近を境に違いがあるような結果が得られました。なお、気温データは日々の日平均気温そのままではなく、21日移動平均したものから最寒日の気温と桜の開花日の気温を求めています。

 (注)気温の日々変動を平滑化するため移動平均をしましたが、いろいろと試めした結果、21日移動平均が
    最も平年値で調査した結果に近い答えが得られました。

 ちなみに、最寒日の気温3℃未満の日に対する桜の開花日気温の4年間の平均は10.1℃で、最寒日の気温が3℃以上の場合の一次回帰式は、

    y = 0.8114 x + 7.432  x:最寒日の気温  y:桜の開花日の気温

となりました。


4.まとめ
 最寒日の気温が3℃以上の地点では、それが1℃上昇する毎に桜の開花気温がおおよそ 0.7℃前後上昇するようである。また、最寒日の気温が3℃未満の地点では、桜の開花気温は10℃前後である。
 一次回帰式を求めた際のバラツキ誤差の要因としては、各年では実際の桜の開花日が暑い日であったり、花冷えであったりすることが考えられる他、標準木の樹齢やアメダス観測点と標準木の場所の違いも誤差の要因と思われます。

 今回調べてみて「最寒日の気温3℃」という目安が得られましたので、初期の目的は達成できたと思っています。桜関連のホームページでいろいろと調べてみますと、桜の開花は気温が一番重要だそうです。今回は日平均気温を対象としてまとめてみましたが、日平均気温よりも最高気温や最低気温の方が、桜の開花に影響が強いかもしれませんので、この点を今後の課題にしたいと思います。
<話題提供2>
日本海に発生するポーラーロウ

 柳瀬 亘さん(東京大学海洋研究所)
 柳瀬さんには「日本海に発生するポーラーロウ」と題して、これまでに発表されているポーラーロウに関する研究報告などを基に、それに関する基本的な事項、知見等を整理したものをお話して頂きました。


1.イントロダクション
 まず初めに日本海に発生したポーラーロウの事例として、1997年1月22日午前3時(日本時間)の地上天気図(ASAS)では、日本海に小さな低気圧が解析され、同時刻の気象衛星雲画像(IR画像)では、スパイラル型の雲が映し出され、これがポーラーロウであると説明がありました。

 以下、ポーラーロウの定義、その発生場所、その水平スケール等と説明が続き、ポーラーロウの基本的な事項について確認しました。

*ポーラーロウの定義
 その定義は研究報告によって未だまちまちですが、おおよそ次のように集約できそうです。今回の話も、ここで定義したもので進めます。

 ●発生領域
  温帯低気圧より高緯度である寒気内。海洋上が多い
 ●水平スケール
   200〜1000km。温帯低気圧や熱帯低気圧より小さい
 ●衛星画像で見られる雲の形状
  コンマ型か、スパイラル型
 ●社会的影響
  日本海側地域の里雪型の豪雪の一因になる。波浪によるソ連船の海難事故。強風による山陰本線餘部鉄橋
  での列車転落事故(1989.12.28)


2.ポーラーロウとは?
 もう少し具体的にポーラーロウについて概観してみます。

(1)発生領域
   北半球:太平洋、日本海、ベーリング海、アラスカ湾、大西洋、北海、ノルウェー海、バレンツ海、
       ラブラドル湾、ハドソン湾、*地中海での報告事例あり。
   南半球:南極大陸の周辺海域

(2)季節分布
   アラスカ湾の事例報告によりますと、11月〜2月に発生数が多く、寒気の強い冬季に発生することが解
   ります。また、ノルウェー海の事例によりますと、ポーラーロウは海氷域の縁で発生し、暖かい海洋上
   で発達し、上陸して消滅することが多い。

(3)分類
   ここでは Businger&Reed(1989)の分類方法を紹介します。

    ●短波長トラフ型
     コンマ型の形状。温帯低気圧の後面に形成
    ●極前線型
     スパイラル型の雲の列。海洋と陸地の間の温度勾配の中に形成
    ●寒冷低気圧型
     台風のような軸対称の形

   実際には、上記の特徴を併せ持つ複合型も多く発生しています。

(4)発生・発達メカニズム
    ●傾圧不安定
     温帯低気圧で指摘されるメカニズム
    ●上層擾乱の影響
     寒冷渦や上層トラフなど 上層擾乱による引き伸ばし効果
    ●CISK(第2種条件付不安定=Conditional Instability of the Second Kind)
     熱帯低気圧で指摘される積雲対流との相互作用
    ●WISHE(大気と海洋の相互作用=Wind Induced Surface Heat Exchange)
     海面からの熱供給との相互作用

   実際にはこれら複数のメカニズムが事例毎、発達段階毎に寄与を変えて作用しています。


3.日本海ポーラーロウ
 日本海に発生するポーラーロウは、その発生場所が他の地域に比べ緯度が低いことで、気象衛星に明瞭に補足されやすいことや、日本海という内海であるため、陸地へ接近して来たときに気象観測網に引っ掛かりやすいということで、ポーラーロウを研究する上で好都合な存在になっています。

 実際に日本周辺での発生状況を見てみますと、二宮(1989)の調査報告では、太平洋北西部と日本海に発生していることが解ります。また、温帯低気圧との位置関係で見ますと、ポーラーロウは温帯低気圧の西〜北西側に位置し、寒冷渦の南東側に位置しています。

 さらに、ポーラーロウが多発する時季の一般場を見ると、

   ●層厚(500hPa-1000hPa);日本海へ寒気が張り出す
   ●500hPa高度;日本海上層はトラフになっている

 一方、ポーラーロウより小さい擾乱(水平スケールで20〜200km)の発生も確認されており、その発生場所としては朝鮮半島の東方海上、北海道の西方海上の2ヶ所に、その発生しやすい場所があります。

 その理由としては、
   ●朝鮮半島の東方海上;朝鮮半島の白頭山を廻る風が収束する。
   ●北海道の西方海上;大陸及び北海道からの風が収束。
などが考えられ、この2ヶ所ではポーラーロウも発生しているようです。

 前に述べたポーラーロウの定義にこれらを当てはめてみますと、分類では複合型が多いと思われます。また、発生・発達メカニズムでは、複数のメカニズムが働いていて、周囲の地形が影響している可能性も大きいと考えられます。


4.ポーラーロウの数値シミュレーション事例
 ここではイントロダクションで取り上げられた事例について、数値シミュレーションを行った結果を見せて頂きましたが、その対比事例として見せて頂いたIR画像の動画を見ているような錯覚を覚えるほどのものでした。なお、錯覚を覚えた雲は、液体の水と固体の水(いずれも計算される)を鉛直方向に積分した結果を仮想的な雲として表現したものです。

 ここで柳瀬さんは、ポーラーロウの数値シミュレーションの意義について、次のように述べています。

*数値シミュレーションの意義:
 水平スケールが小さく、また寿命も短い現象であるため、観測だけでは捉え難い。これらのハンデキャップを補い、ポーラーロウの構造実態が見えてくる。

 数値シミュレーションを行うことによってポーラーロウの実態、構造、発達システムなどが解明できるわけですが、次にその解明結果のひとつの報告事例を紹介して頂きました。

 ●下層の構造
  気圧中心、スパイラルバンドに強い渦度がある。寒気の吹き出しに伴う北風と、低気圧西側の北風との
  重ね合わせで中心の西側で風が強くなる。下層の温位で見ると、東側で暖かく、西側で冷たい。
 ●中層の構造
 ●中心を通る東西鉛直断面
  温度鉛直分布 5km 背が低い
  下層近くが最も強い
  中心のやや東に暖気核、下降域、下降流に伴う断熱昇温による
 ●等相当温位面
  北西側で上昇〜雲域を形成
  南東側で下降〜目や雲の無い領域
 ●感度実験から
  海面からの熱供給と凝結熱が重要。これらの効果を除いて計算するとポーラーロウの発達が弱まる。


5.質疑応答
Q:ポーラーロウの発生場所の説明で、地中海での発生事例が報告されているとのことでしたが?
A:発生は冬季で、やはり寒気内でした。

Q:何故、柳瀬さん(東京大学海洋研究所)は、ここ海洋研でポーラーロウを研究されているのですか?
  (あまり海洋とは関係が無いような研究ではないかと思うんですけどねえ。)
A:何故でしょうねえ(苦笑い)。ポーラーロウも大気海洋相互作用が働いていますから、全く関係ないとは
  言えませんけどねえ。もっとも、私の研究室には竜巻を研究している人もいますから、こちらの方が…!

Q:水平スケール 20〜200kmの現象はポーラーロウとは違うのですか?。
A:小さなスケールでは、順圧不安定のメカニズムが働いている可能性があります。ただ、このスケールの現 
  象がポーラーロウ発生のトリガーとなっている可能性があります。

Q:今日見せて頂いた数値シミュレーション結果の計算モデルは何か?。
A:気象研究所/数値予報課非静力学モデル(MRI/NPD-NHM)を使いました。気象庁の現業モデル RSMを初期
  条件、境界条件にして非静力学モデルを走らせました。


6.参考文献
 会合後に柳瀬さんからポーラーロウに関する参考文献を幾つか紹介して頂きました。なお、日本語文献はまだまだ少なく、柳瀬さんご本人もほとんど英文のジャーナルで勉強されたそうです。

 ●小倉義光,2000:総観気象学入門 東京大学出版会……新しさと詳しさの面でお勧めです
 ●浅井冨雄,1996:ローカル気象学 東京大学出版会……日本海側の豪雪の話の所でポーラーロウを紹介
                           7章5節に出てくる中規模低気圧というのが、
                           ポーラーロウを指していると思われます
<話題提供3>
南関東の雷

 大門禎広 会員(栃木県気象予報士会)
1.はじめに
 今回お話するものと同じ調査を栃木県内について行い、それを以前、第2回栃木県気象予報士会の会合で発表したことがあります。今回の調査方法もその調査報告と同じようにやりましたが、高層データについては館野と八丈島を使いました。また、調査は2000年7〜9月について行いました。


2.発生条件
 南関東(東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県)のアメダス34ヶ所について、日降水量1ミリ以上、10ミリ以上等の条件を満たす地点が何ヶ所あったかで発生した雷の規模を大・中・小・無しの4つに分類し、それぞれのケースについて、館野と八丈島の850hPa、700hPa、500hPaの気温と湿数データを拾い出し、どのような条件のときに雷が発生して、雷の規模が大きくなるのかを調べてみました。

 その結果、発生条件として以下の目安を得ました。

   ●雷の発生は500hPa気温−6℃以下、700hPa以下の湿数が6℃以下が目安。
   ●500hPaまで湿っていると規模が大きくなる。
   ●湿数10℃以上の層があると発生しにくい。
   ●距離的にも近い館野との関連が強い。


3.発生場所
 東京電力(株)の雷レーダーの連続画面を収集し、雷雲と思われる雨域について、その発生場所、その移動経路について調べてみました。南関東についてみると、次のことが解りました。

   ●秩父付近での発生が特に多い。
   ●東京都心付近での発生はやや多い。
   ●神奈川県での発生は少ない。


4.移動方向
 雷雲の移動方向についてですが、第1回栃木県気象予報士会例会のとき、宇都宮大学の国分教授が、雷雲は上空の風が強いときは上空の風の方向へ、弱いときは川筋に沿って進み、雷雲の移動は700hPaの風向と一番良く合うとお話になりましたが、風が弱いときと強いときの境界は風速は幾らなのかという疑問と、700hPaの風に流されるというのは本当なのかという疑問になりましたので調べてみました。

 その結果は以下のとおりでした。

   ●700hPa〜500hPaの風向に近い。
   ●850hPa〜500hPaの風が10〜15ノット以上になると風の方向に移動する。
   ●上層の風向きによらず秩父付近で発生し、東南東に進む雷雲が多い。

 栃木県内について同様の調査した結果は、国分教授が云われたことが当てはまっていましたが、南関東についてはあまり当てはまらないようです。


<質疑応答から>
Q.発生場所の説明の中にありました「東京都心での発生が多い」という点は、最近都心で多発する集中豪雨
  などもあって、注目されていることですね。
A.「東京都心付近に雷雲が進んでくると急に発達する。」ということは、説明しながらスライドを見ていて
  自分でも「あれっ」こんなことがあったのかと思いました。雷雲経路の資料作りに没頭してしまって気づ
  きませんでした。
<話題提供4>
アメダスデータ表示ソフト鋭意制作中!
渡辺保之 会員
 会合の最後に、渡辺さんから表記のご報告(宣伝?)がありました。その内容は下記のとおりです。

●気象庁月報CD-ROM収録の「アメダスデータ時別値」を用いて、アメダス観測点での各要素を、地図上に分布
 図として抽出、表示するソフトです。
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●開発環境:Windows98SE+Visual Basic 5.0
●必要なデータ:気象庁月報CD-ROM版
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         ※収録データがCSV形式に切り替わった平成13年1月分以降についても、次期バージョ
          ンで対応予定
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(注)現在 「AMeMapのページ」 で配布中です

 

     2001年(H13)12月23日 第18回東京支部会合

<話題提供1>
東海豪雨時の予報・警報作業とその課題

 上村 喬 会員(気象庁天気相談所長)
 <1>最近の集中豪雨(平成10〜12年)のレビュー
1)概説
 最近、特に平成10年以降、それまでの記録をはるかに凌ぐような豪雨が各地で目立つ。主なものだけでも
  ・平成10年8月上旬  新潟豪雨
  ・平成10年8月末   那須豪雨
  ・平成10年9月下旬  高知豪雨
  ・平成11年夏     東京練馬の豪雨
  ・平成11年9月    福岡・広島の豪雨
と発生している。
 これらの豪雨は、過去の記録から突出した雨量をもたらした。最大日降水量を観測所別に並べた歴代順位で比較すると、高知豪雨ではそれまで27位だった高知県繁藤が2位に、那須豪雨で栃木県那須が 114位から
一気に4位になるなど、従来の 1.5〜3倍の豪雨が降るという予想外の出来事が起きたといえる。


2)1998年8月上旬豪雨(新潟豪雨)
 この豪雨は、梅雨前線が本州上に停滞し、台湾付近に台風があるという、豪雨発生時の典型的なパターンの中で発生した。
 降水分布を見ると、豪雨帯の幅はわずかに10km程度の狭い範囲に集中している。これはテーパリングクラウドがその長軸方向に移動したことによるものである。また継続時間が6〜7時間、立ち上がりが急と比較的短時間だったことも特徴で、新潟付近の地形的影響もあって、浸水の進行も急であった。
 上村さんが当時勤務していた新潟地方気象台では、新潟市で97mm/hのピークを迎える約2時間前に大雨洪水警報を発表しており、タイミング的には一見極めて適切であるように見える。しかし実はこの警報発表は、そ
の直前に観測された村上市方面での50mm/hを受けてのもので、新潟での豪雨を予測してのものではなかった。これは、メソスケール現象の予測の困難性を意味している。2日前から北陸地方で大雨や短時間強雨の可能性を予測できていたが、新潟豪雨のスケール程度の予測は未だできていないことを踏まえておく必要がある。

 豪雨発生時の高層天気図を見ると、基本場が東谷で、そこに弱い西谷が接近しつつある形であった。これは北陸で豪雨が発生する際の特徴な形であり、注意を要する気圧配置といえる。また北陸では、降水域はアメダスのない海から進入してくることが多く、予測・実況監視等には注意が必要である。


3)1998年8月末豪雨(那須豪雨)
 このときに気圧配置を見ると、東海上から太平洋高気圧が東日本に張り出し、その縁辺にあたる三陸〜関東に前線が停滞、前線系が動けない形の中でテーパリングクラウドが次々と発生し、さらに関東南方海上で北上中の台風の間接的な影響が加わって、那須ではわずか6日間で平年の8月の月降水量の4倍を超える突出した雨量を記録した。


4)1998年9月末豪雨(高知豪雨)
 この豪雨は、太平洋高気圧の西の縁辺に沿って前線が南北に振動し、そこへ暖湿流が継続的に流入したことで発生している。浸水に加えて、高知県内各地で土砂災害が数多く発生した。


5)1999年7月21日(東京都練馬区の雷雨)
 この雷雨で 100mm/h以上の豪雨を記録したのは、練馬区・中野区・新宿区・板橋区の、5km四方に満たない極めて限られた地域であった。練馬区では 151mm/hを記録したが、継続時間はほぼ1時間。東京の集中豪雨はそのほとんどが夏の雷雨によるもので、継続時間はやはり1時間程度である。こうした豪雨の予測はほぼ不可能であり、どのように対応していくのかは大きな課題となっている。


6)1999年6月29日(福岡県の豪雨→広島豪雨)
 この一連の豪雨は、梅雨前線上の低気圧に伴う寒冷前線上で発生したもので、前線の移動とともに豪雨域も移動したことが特徴である。福岡市では地下街の浸水が、広島では土砂災害が大きくクローズアップされた。
 予測という点でこの豪雨を検証すると、従来のRSMでは実況に見られるようなシャープな強雨域は予想できていない。しかし、2kmメッシュのNHM(非静力学モデル)では、線状の強雨域をかなり鮮明に再現することに成功している。


<2>2000年東海豪雨
1)気象概況
 本州上に前線が停滞、また日本の南には大型で非常に強い台風14号が沖縄方面に向かって進行中であった。そして、台風周辺から前線に向かって暖湿流が入り、ほぼ同じ地域で長時間、積乱雲が発生・発達したことから、愛知・三重・岐阜など東海地方を中心に記録的大雨となった。


2)特徴
 東海豪雨の特徴は立ち上がりが急だったことである。名古屋の1時間降水量で見ると、9月11日の18時頃までは、10〜20mm/h前後の降水だったものが、18〜19時で一気に93mm/h(任意の1時間では18時06分〜19時06分の97mm/h)を記録している。


3)エコー解析
 レーダーエコーで強雨域を見てみると、18〜20時頃に、秋雨前線の南側に当たる志摩半島〜知多半島〜名古屋市付近で積乱雲が急発達していることが分かる。
 この原因については、上層で弱い気圧の谷が通過、さらにサブハイの西への拡大によって、日本付近の傾圧性が増したことがトリガーとなったのではないかと考えている。


4)災害の状況
 名古屋市内では、愛知県知事指定河川である新川の破堤等で浸水が広範囲に及んだ。これを契機に、都道府県知事が気象庁長官と共同して洪水予報を行なうことができるよう、水防法などが改正された。
 浸水被害は甚大であったが、愛知県内で死傷者は7人に留まるなど、人的被害は最小限に抑えられた。


5)数値予報は東海豪雨をどのように予想していたか
 RSMでは、500の谷、700での湿り域と傾圧性の強化、地上での強降水域形成等、強い降水のポテンシャルを示していた。これらを基に、名古屋地方気象台は「強雨に関する情報」を先行して発表した。また、試験運用中だったMSMは、線状の強雨域の形状や、1時間降水量などをRSMよりよい精度で再現することに成功している。MSMは完全とは言えないまでも、こうした現象に対してある程度の手掛かりになる。


6)求められる技術
 こうした技術的状況の下で、予報官には2つの能力が求められると考える。

 ・実況把握・診断……何が起っているかの見極めと、その現象(特に
           メソスケール現象)を説明できる能力
 ・現象の説明能力……その事象に自分がどう関与し、何を為すべきか
           を判断し、実行する自立的能力

 例えば、今回確かにMSMは、予想雨量は実況に近い値を出してきており、線状の強雨域も実況に近いパフォーマンスを示している。しかし場所は、若干西側にずれた位置を予想していた。これを実況と照らし合わせて「チューニング=適合する状況に合わせる」する能力が必要となる。


7)東海豪雨のメカニズム
 東海豪雨のメカニズムについても触れておく。

 7-1)降水システムの構造
 潮岬などの高層時間断面図を見ると、11日15時過ぎから下層は360K超の高温位で対流不安定となっている。また南風も強く、湿潤空気の送り込みが強化されていることも読み取れる。
 名古屋大学の坪木和久氏らの研究によれば、秋雨前線の南下に伴ってその南側でCbクラスタの発生が認められるが、この成因として次のようなメカニズムが考えられるという。
  925の等混合比線を見ると、沖縄付近の台風から北東方向・舌状に、湿潤域が日本の南海上に張り出しているのが見える。この湿潤空気は南東風で東海地方に運ばれている。そして東海地方では下層は南東風、上層は南西風とシアが大きくなっていた。
 このような場の中で、下層の降水セルは北西進しながら下層に雲水を形成し、上層では背の高い雲域が南西から下層雲域に合流した。そこで上層で形成された氷粒子が、下層の降水粒子の形成を助ける「種まき効果」が起き、降水を強化したのではないかと考えられる。名古屋での激しい雷や大粒の雨は、あられの形成を示唆している。

 7-2)なぜ停滞したか
 東海地方では、中部山岳の高気圧性循環からの冷気流や山地の接地冷却による冷気塊と、南〜南東からの暖湿流との間で収束線が発生し、これによって紀伊山地の東〜南東斜面で局地的短時間強雨が発生することがある。この地上収束線は、東海豪雨当日にも発生し、午後〜深夜にかけて愛知県内に停滞した。この地上収束線の停滞が、強雨域の停滞をもたらしたと考えられる。


<3>防災気象情報の評価
8)名古屋地方気象台・業務ドキュメント
 東海豪雨時、名古屋地方気象台の予報課長だった上村さんは、豪雨で混乱する中、業務ドキュメントの作成を指示した。これは、予・警報業務の運用、電話応対、防災機関・報道機関との対応等を記録し、事後対処に活用ために作成したもので、事後の検証や対策のための貴重な資料となっている。
 これを防災業務の4ステージ「災害予防対策」「災害応急対策」「災害復旧対策」「危機管理対策」から検証する。


9)災害予防対策……東海豪雨発現前の情報
 名古屋地台発表の「地方気象情報」では、広域的には大雨発現の恐れを事前から伝えていた。しかし細かく見ると、豪雨発現前の情報で、その前号より予想雨量を下方修正したり、隣県で解析雨量 110mm/hの豪雨を観測したことを盛り込みながら、数時間後に豪雨に見舞われることは想定していない情報を発表するなどの課題も残った。機敏な予想の切替で「以前の予測より状況が厳しくなった」というシグナルを伝える工夫が必要である。


10)災害応急対策……東海豪雨発現後、その渦中での情報
 このような特異な気象現象に直面するのはほとんどの職員が初めてであったこともあり、急激に変化する実況に対応するのがやっとで、予測を踏まえた対応はほとんどできなかった。
 しかし幸運だったのは、豪雨の発現が日勤者の帰宅時間と重なり、帰宅不能で職場に残った職員が多数出たことで、人数が確保できたことだった。これが通常の夜勤3人体制の下での発現だったら、おそらく対応不能に陥っていたのではないか。また職員の自発的な業務遂行や責任感ある行動に支えられた面も大きい。

 東海豪雨では、土壌雨量指数を用いた大雨警報の切り替えを、名古屋地台として初めて行なった。これは、土壌雨量指数の履歴等により、一段と警戒を強める必要があると判断した時に、それまでの警報を切り替えてその状況を伝えようとするもの。 警報文の見出しに「名古屋市とその周辺では、過去数年間で最も土砂災害の危険性が高まっている。」などの文言を入れることで、切迫した状況を伝えようとした。
 さらに「記録的短時間大雨情報」「指定河川洪水警報」「愛知県気象情報」などを次々と発表していった。いずれも見出しの文言の工夫や、図を効果的に配置するなど、状況が一目で分かるよう工夫を続けた。


<4>気象庁の防災業務の方向性
11)大雨警報は知られていたか
 東海豪雨後、NHK名古屋が市民を対象に行なったアンケート調査で「大雨警報・記録的短時間大雨情報の両方の発表を知らなかった」という回答が50%もあった。
 一方、名古屋市の調査では「気象情報をどのように入手したか」では「テレビ」「ラジオ」という回答が圧倒的であった。

 また、今回改めて浮かび上がったのは、気象庁と報道機関との「警報切替」についての意識のズレ。
 気象庁は「警報切替」で新たな情報を伝えようとしている。しかし報道機関側は「警報切替」はほとんど放送していない。気象庁が警報を切り替える趣旨が報道機関に支持されていないということ。今後、報道機関と仕組みの検討が必要である。


12)警報のありようは
 気象庁が発表する警報のありようについては
  ・究極的には市町村単位に発表する 
  ・市町村がとる防災対策に寄与するアドバイザリー情報にする
 これらを目標に、技術、体制の整備基盤を図ることの検討が始まっている。


13)次世代の予報業務
 気象審議会第21号答申にも示されたように、いわゆる天気予報は民間に任せ、気象庁は「予報中心から防災気象情報中心へ」という流れが出来つつある。
 防災気象情報の2つの責任

  ・リスポンシビリティ(responsibility)=行動責任
    情報の瑕疵について当事者、監督者あるいは、その組織体とし
    ての気象庁に直接責任を問われるもの
  ・アカウンタビリティ(accountability)=結果説明責任
    故意・過失ではなく生じた情報瑕疵についても国民を納得させ
    るだけの説明が出来るかどうかの責任

を全うできるよう、努力していく。
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         〜〜 質疑応答から 〜〜

Q)豪雨への地形の影響は?
A)那須豪雨や高知豪雨は地形的な影響が効いている。東海豪雨は平地で起きたことが特徴。新潟豪雨は、モ
  デルで佐渡を取っても発現するので地形が成因ではない。

Q)地方自治体などの防災行政に気象庁してどこまで踏み込むのか?
A)あくまで地方自治体がどのような防災対応をとるのか、その判断材料になるような情報を提供していく、
  という立場。その際、各自治体で気象予報士の活躍の場が生まれるかもしれない。

Q)警報の改訂などは気象業務法改正が必要だが、そこまで視野に入れているのか?
A)改正しない範囲で何が出来るかを検討しているところ。気象予報士関連では「こうした場を与えるから、
  ここで仕事をしなさい」というような新たな「オリ」を作ることは気象庁としては考えていないようだ。

Q)報道機関との意志疎通については?
A)危機感が伝わらないことが悩ましい。現行では「警報切替」という形でしか伝えられないのだが。予報官
  が感じる危機感をどうやったら伝えられるか、報道機関との協議を続けている。
<話題提供2>
プロット図作成ソフトについて

 今村明男 会員
1)概要
 このソフトは、有料気象情報サイトから入手した通報式形式の観測データをプロット図としてプリントアウトする機能を持つ。特徴として、表示地域の大きさを選択することができ、局地天気図の作成も可能。また
 925・850・700・500・400・300・250hPa の各高度面高層図の作成機能も盛り込んだ。
 通報式の入手は有料サイトからになるものの、データの表現形式を変えていることから、作成したプロット図は著作権上の問題なく自由な配布が可能であり、各地の天気図検討会や通信式天気図検討会等で使用してもらっている。


2)通報式とは
 気象観測データを報告するために国際的に定められた方法で、モールス符号時代からの伝統を引き継いでいるため、かなり複雑な約束事がある。このためソフトでの解読時には、エラー処理などに悩まされる。

2-1)データと解読の例(地上SYNOP)

  47401 11/06 83206 11069 21083 30181 40195 51015 60052 78682
  883// 333 21074 4/030 555 15014 19030=

 47401 --> 地点番号:稚内
 11/06 --> 降水群の情報を第一節に含む・有人観測所コードによる
       天気情報を含む・雲底の高さ不明・視程0.6km
 83206 --> 雲量8/8・風向315°〜325°・風速06ノット
 11069 -->(最初の1は固定)気温:-6.9℃
 21083 -->( 〃 2 〃 )露点温度:-8.3℃
 30181 -->( 〃 3 〃 )現地気圧:1018.1hPa
 40195 -->( 〃 4 〃 )海面更正気圧:1019.5hPa
 51015 -->( 〃 5 〃 )気圧傾向:上昇後一定・+01.5hPa
 60052 -->( 〃 6 〃 )降水量5mm・観測時前12時間の降水量
 78682 -->( 〃 7 〃 )現在天気:並または強いにわか雪
               過去天気:驟雨性降水・観測時間を通
               じて雲量6以上
 883// -->( 〃 8 〃 )下層雲雲量:8/8・下層雲は無毛積
               乱雲・中高層雲:雲の種類は不明 
(以下略)

 ※お願い:無人観測所の現在天気記号の意味がわかりません。ご存じの方教えてください。

2-2)相当温位
 前線解析や対流不安定検出に有用なことから、各観測点の相当温位を計算し、表示することを試みた。現在計算式としては下記のDolton論文中の実験式を使用しているが、この式では FXJP854の数値と高温高湿の時にずれがでる(実験式の方が高くなる。原因はまだ分かっていない)多くの文献にある相当温位のおなじみの式はあくまで近似式であるので注意が必要。

・持ち上げ凝結高度における温度TL
  TL = 1 / ( 1 / ( Td - 56 ) + ln ( T / Td ) / 800 ) + 56     T:温度 Td:露点温度

・相当温位θe
  θe= T (1000/ p) ^ 0.2854 (1 - 0.00028w) * exp [(3.376/ TL - 0.00254) * w * (1 + 0.00081w)]
     T:温度 p:気圧 w:混合比(g/kg) 

 相当温位については解析のやり方や誤差要因によって、数字に開きが出ることがあり得るため、絶対値の扱いには注意が必要である。


3)プロット図の表示
3-1)地図作図法
 地図の作図は、ASASなどを参考に次の方法によった。

・等緯度線は、北極点を中心とした同心円とするが、等緯度線相互の距離は赤道に近い方をやや広くする
・各等緯度線と北極点との距離を緯度の2次関数として近似
  →緯度を与えると、北極点からの図面上の距離が求まる
・中心経度を決め、経度の表示は、中心経度との差分だけ北極点と結ぶ線を回転させることで求める

 風向表示では、表示点の北方向を基準にするため、上記差分回転角分の補正を行なう必要がある。

3-2)海岸線データ
 アメリカ地質調査所(USGS)が、同サイトから著作権フリーで配布しているデータを使用した。具体的には海の部分とそうでない部分の境界点=海岸点を北緯・東経で表現した別ファイルを作成し、表示範囲に応じて画面上に描画する。よく使用する範囲については、描画済みビットマップを作成して使用している。

3-3)観測地点表
 世界気象機関(WMO)のサイトから入手。このデータは、観測点番号・緯度・経度・標高・国名・地名等が記述されている。

3-4)表示地点の選択
 ASASサイズで全観測点を表示すると、稠密になり過ぎて読みとりが困難になる。このため、表示する地点をファイルで指定する「間引き」を行なっている。このためメソ的な状況が見落とされる可能性があり、ASAS等を見る時にもスムージングによる現象の欠落には十分注意する必要があると思われる。


4)今後の予定
 今後、プログラム配布を前提にした操作性の向上、表示オプションの切替が出来るようにするなどの改良を考えている。
 またアメダスデータの重畳表示なども検討中である。

 このソフトで作成したプロット図を希望する方には日時(2001/09/15以降)・地域(極東全域、札幌・東京・福岡の局地図、そのほかの地域指定の局地図)を指定して今村さんまでメールしてください。印刷済み
のプロット図をご希望の場合は郵送も対応しますので、これもお問い合わせ下さい
(今村明男さん aimamura@mail3.alpha-net.ne.jp )。
<話題提供3>
9月10日に八王子付近に発生した竜巻
 加納良真 会員
1)概要
 9月10日10時過ぎ、町田市から多摩市、八王子市にかけての長さ約7km、幅約30mの細長い帯状の地域で、竜巻による被害が発生した。この竜巻は、被害状況からF1クラスと推定されている。


2)八王子市の観測
 八王子アメダスの10時の観測では東南東6m/s であったが、八王子市の自記観測によれば10時26分に東南東27.6m/s の突風を観測していて、この時刻頃に、当該竜巻を発生させた小規模な低気圧が、八王子アメダス地点のすぐ東側を通過したことが読みとれる。


3)気象状況
 10日9時のASASでは、紀伊半島の南海上を台風15号が北上中で、関東地方は台風の第1象限にあたっている。 850面では、館野で南東45ノットの強風となっているが、この風は素直に関東平野には進入せず、アメダ
ス実況を見ると東風が卓越し、鉛直シアが大きい状況になっている。


4)レーダーエコー図
 竜巻が発生した時刻前後のレーダーエコー図を見ると、埼玉県〜東京都西部に雨雲が停滞しており、ここに台風のアウターバンドが南東からぶつかる形になっている。この衝突したところで竜巻が発生している。

 今回の事例のように、竜巻が発生しやすい状況としては
 ・台風の第1象限にあたり
 ・鉛直シアが大きい状況下で
 ・停滞中の雲に台風のアウターバンドがぶつかる状況
という特徴が指摘される。

 同様に、 風の鉛直シアーが強い場所に、台風アウターバンドに伴うメソサイクロンが通過する際にも竜巻発生の事例がある。実況監視時には注意したい点である。

 

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