第64回(2011/10/1)慶応義塾大学日吉キャンパス

【第一部】話題提供

田家 会員「ENSO研究の歴史と現在『世界史を変えた異常気象』

 田家会員の著作第2弾が発行され既に第3刷の決定及び中国語訳も出る予定となっている素晴らしい本に基づいた発表であった。著作は、ペルー/イースター島などのローカルの歴史から気象から見たグローバルレベルな話題へ広がる構成になっているが、今回発表は、その中でも最も力が入っているENSO研究史が中心となった。
 太平洋の大気の流れとペルー沖の海流(フンボルト海流)をホセ・デ・アコスタは研究し海流の逆流、集中豪雨等の研究よりエルニーニョが明確になってきた。またインドでは干ばつとエルニーニョとの関係が明らかになった。
 Walkerは統計的な回帰分析によるインドの降水量予測式を出した。また南方振動を提唱した。ビヤークネスのエルニーニョENと南方振動SOの結合を提唱したが、その息子がUCLAでカントン島の海洋気象データから気象からENSO発生要因を見つけエルニーニョの発生予測を研究し、理論研究で1年以内のENSO発生を予測できるかに取り組んだ。
 最後にENSOとダイポールモード(インド洋東で海水温低下、西で海水温上昇)について触れ、著書にも登場する升本さんの紹介があった。ダイポールモードとENSOは1年のタイムラグで負の相関があると言われている。
 大変幅広い内容を網羅し是非著作をすぐにでも読みたくなるような発表であった。

池辺 会員「気象関連の本紹介」
 ここ数年で出版された気象関連の本をそれぞれ簡単な説明つきで紹介があった。もちろん田家会員の2冊も入っており前発表との見事なコラボを見せて進み日経新聞のラニーニャの終焉と言うコラムの話題から次の升本さんの発表にうまく繋いで頂いた。翌日朝日新聞の朝刊に田家会員の著作が大きく紹介されたのは何とも絶妙なタイミングであった。

招待講演:「今夏の季節予報の総決算と今冬の寒さの見通し」

講師者:升本順夫(ますもと・ゆきお)様
海洋研究開発機構(JAMSTEC)地球環境変動領域プログラムディレクター
気象庁・異常気象分析検討会委員
 気温の変化が激しかったこの夏。
 数ヶ月の時間スケールで見た季節予測はどれだけ当たっていたのかを、JAMSTECの升本さんに振り返ってもらった。升本さんらJAMSTECのグループは、インド洋や太平洋の熱帯地方での気候変動を重視した予測研究をしており、シミュレーションの結果はJAMSTECのホームページにも掲載されている。
 発表は、大きく3つのパートに分けて進められた。
1 JAMSTECにおける季候変動予測の試み
主な研究テーマ+エルニーニョ・ENSO熱帯域気候変動のテレコネクション+インド洋ダイポールモード現象の予測(インド洋東で海水温低、西で海水温高、エルニーニョ予測では世界トップクラスの予測精度)+SINTEX-F1(大気海洋結合モデル)カップラーを用い大気と海洋の結合を地球シミュレーターを使用して行うもの
2 日本の夏の気候に影響を与えるプロセスの一例、インド洋からの遠隔的な影響
 2010年日本に猛暑をもたらした要因の1つとしてエルニーニョに遅れてインド洋の広い範囲で海面水温が上昇した。これが大気を暖める事によって対流圏の平均気温が上がった。Walker循環の強化に伴いフィリピンから日本に高気圧性循環が起こり南から湿潤気が入ったものである。ダイポールモード発生時のインド洋での活発な対流現象が弱まると、日本付近は暑くなる。
 2011年の夏はどうだったか?太平洋熱帯域ではラニーニャもどき傾向が継続、インド洋水温は平年並みOR弱い正のダイポールモードであった。従って、西太平洋の活発な対流域下降気流が励起され日本付近の太平洋高気圧が活発になった。
3 今冬の予測結果の紹介・・・ラニーニャが強くなる。
 今年の冬はラニーニャ傾向が2011年夏季に弱まっているが、秋から冬にかけて再び強化される。太平洋中部での低温傾向が秋から冬にかけて東へと広がる。したがって広い範囲で低温傾向(北日本がやや暖かいが、その他は低温傾向?)が予測される。
 と言うもので、我々の身近な昨年今年の夏の高温を広く地球規模で分析解説して頂き、その奥の深さと研究結果のレベルの高さに驚かされた。また今年の冬もアジア太平洋域の気象現象に目が離せない事に成るのではないかと大いに期待される。

【第二部】話題提供

 濱野 会員「北越戦争〜ガトリング砲、秋雨の越後に消ゆ」
 戊辰戦争の時代、日本ではほとんどの戦いはが銃撃戦でありタイトルのガトリング砲は幕末では最高の武器であったにも拘らず大量の火薬消費や1個所しか撃てないことなど実用に適していないので何処にも売れなかった。
 1868年の気象は、梅雨の時期が不明確、長雨、秋雨前線で信濃川が増水など1998年の梅雨時期とよく似ていると推定し、その天気図と比較することにより北越戦争の戦略やその結果に影響を与えたかの解説があった。
 大変わかりやすくかつ聞きやすく説明して頂き、幕末から新政府への時代に興味をかきたてるものがあった。最後にスペシャル企画[案]の紹介が有った。
 気象と戊辰戦跡ツアー2012年7月7日
 北陸新潟支部合同企画(案)さてどうなるか大変楽しみな企画でもある。
 和田 会員「2010年12月3日の大雨」「台風12号について報告」
 たまプラーザ上りホームに土砂流入駅ホーム外の盛り土(植物アリ)が陥没し駅に流れ込んだ。短時間の強い雨が降った時間帯に閉塞点が通過していた。 熊谷の風・降水・館野の高層データ等実況を取り入れ判り易い説明があった。原因は下層にこの季節として高相当温位の気流が入ったと考えられる。
 9月3日台風12号
 台風12号では十津川村などで大規模な土砂崩れが発生し、深層崩壊と言われている。1889年8月19日十津川村で起こったものと天気図及び通過傾向が酷似している。特にどちらも通過速度が極めて遅く大きな被害が出た。
小田桐 会員「鉄道と気象」
 鉄道会社における事故の原因はいろいろあるが、雨地震雪など重大事故で気象に絡む事故は全体の10%となっている。最近の事故の要因の解説(空転と滑走の式の説明、特に落葉と霜等影響大)あるいは最近10年間に起きた2件の事故例が発表された。
 事故例1京王線高尾付近雨量データを使い説明記録的大雨情報出ていた
 事故例2京都での脱線事故
 運転規制中止条件は、会社により対応が違う為同じ気象条件でもそれぞれ差が出てくる。日ごろお世話になっている電車の運行にかかわる話を現役の電車運転士が気象の目から発表した大変身近な印象を受けた。
山本 会員「2010〜2011冬季の着氷性降雨・晴れてほしーの、Wvisを利用した解析」
 FreezingRain(0度より低温の降水、航空機の着陸は出来るが離陸は出来ない)の予報が出されたのは昨年5回あった。帯広を例に雲断面図を使って北海道の北を低気圧が通過、暖域の時に起き易い事が発表された。Wvisによる寒気に滞留暖気の流入の様子その断面が見えるようになってきた。さらにこれらのツールが実際の気象データの有効利用に活用できることが期待される。

懇親会

 懇親会は、ご存じ寅さん貸切で行われ、いつもの神奈川支部どおりの盛り上がりで楽しい時間を過ごすことができました。

参加者数

例会56人、懇親会40人

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