日時:2010年5月29日(土)13:00〜17:00
場所:東京芸術劇場中会議室
内容:
「スリランカ旅行記」根本由紀子さん:写真を交えた楽しいお話でした。
「気候文明史ウラ話」田家康さん:気候文明史で書かなかったことを幾つか。
田家さんの膨大な資料読破が著作の内容の厚みとなることを再確認しました。
「東京地方と台風」藤井聡さん:台風と言えば藤井聡さんですが、その博識に
敬意を表します。
上野充様の講演は、膨大な研究成果の一部でありますが1時間足らずの時間で
極めて密度の濃い内容でした。
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台風の非対称構造−台風コア域の非対称構造を語る
台風は地球の自転から回転エネルギーを得る。地表摩擦で、海面(地表面)
近くでは内向きの流れが生じる。
台風はどの高さの風に流されるか?
数値実験で確かめると500hPaの流れに近い。但し最も成績の良いのは
DLMF(下層から上層までの平均風)である。
ならば、風がないと動かないのか?
→コリオリ力の緯度変化(β効果)のため、北半球では北〜北西に流される。
台風についての様々な疑問
・大きさはどうして決まるのか?
・発生の仕組み
・急発達する原因
・鉛直構造を保つ理由は?
・右側が風が強いと言われるがどうしてか?
・地球温暖化により台風はどうなるか?
・レインバンドの形成
等々
いろいろな説があるが…
【発生】
先駆擾乱、偏東風波動、モンスーントラフ、赤道ロスビー波 、対流バースト、
中層の渦、中層の相対湿度(乾燥)、ボトム−アップ、トップ−ダウン
【強度変化】
上層トラフ、暖水域、海気相互作用(暖水域の厚み)、鉛直シア、二重眼、
ホットタワー、アイウォール外のダウンドラフト
MPI(=Maximam Potential Intensity 到達可能最大強度)、
【構造】
渦内ロスビー波
【移動】
指向流、ベータドリフト、非対称対流活動、渦位診断法
【数値モデルによる予測】
台風ボーガス、海面境界課程(波浪・飛沫の効果)、顕著現象
ここでは台風構造のうち「波数1の非対称構造」を述べる。
ex.2006年 T0616(Bebinca)は台風の北西側で風が強かった。
波数1の非対称:中心のまわりを見たときに降水強度、風速に非対称性が見ら
れる。
キーワードは鉛直シア(=200hPa−850hPa の風のベクトル差)である。
従来、「鉛直シアが強いと、上昇した雲が流されて雲頂高度が低下する=台風は
弱くなる」など鉛直シアは台風の発生、強度に影響を与える因子として注目さ
れていた。
一方、台風移動に起因するものとして「強い降水は移動方向前面で生じる、
風は移動方向の
右側で強い。」考えられてきた。しかし、これらに対する説得力のある説明は未だ
提示されていない。これまでに提案された説は「台風移動に伴う風の非対称に起
因する摩擦収束の非対称により対流活動が非対称になる」というものであった。
観測事実からは
鉛直シアが弱いときは、台風の雲域内でまんべんなく雷が起きる。
鉛直シアが強いときは、シアの前面で雷が多い。
2004年の台風を調べたところ
降水最大の場所は、台風の鉛直シア左前面が多い。右後ろはほとんどない。
移動方向と鉛直シアの向きを基準として調べたところ、台風の降水最大域の出現
頻度は移動方向によらずシアの左前方に多く現れる事が分かった。
非対称鉛直流生成機構の候補
鉛直シアにより直立した台風の渦が傾斜していく。台風中心から見て傾斜の向き
(ダウンチルト)が上昇流となり、逆側(アップチルト)が下降流となる。
実データによる数値実験から対流圏中層における気温変化率を調べると、シア前
方では全体的に上昇流が生じるが、凝結加熱はシアの左前方に集中しており、
シアの右前方では凝結熱不足により気温が低下する。この気温低下の結果シアの
左前方に低温偏差域が出現する。
メソ解析からは、3000m付近でシアの左前方に、5000m付近ではシア
前方から左前方にかけてに低温偏差域が表れる。一方高比湿偏差域はいずれの
高度でも左前方に表れた。
台風の移動方向は、緯度25度あたりを境に北側でシアの左に、南側ではシアの
右側に移動することが多い。
鉛直シアが台風コア域の降水非対称の要因であることは定説になりつつある。
降水非対称と風の分布には密接な関係がある。
従って台風境界層内の風の分布にも鉛直シアが深く関わっている、と推測される。
・水平・鉛直に一様な風の場(シアなし)
・風向一定(西風)で風速を高さとともに増加(風速シア)
・風速一定で風向を下層で南西、上層で北西風に徐々に変化(風向シア)
以上3種の環境風の中に台風渦を置いて数値実験をしたところ、
台風の移動速度と向きはほぼ一緒であったにもかかわらず
シアなしの場では移動方向の右側から右前面に強風域
風速シアの場では移動方向左側(シアの左側から左前面)に強風域
風向シアの場では移動前面(シアの左側から左前面)に強風域が存在した。
移動方向とシアの方向が一致するときは、
アイウォール域の強風に顕著な偏りはなし。
移動方向とシアの方向が逆のときは、
移動方向に対しアイウォールの右側に顕著な強風域
移動速度がシアより大きいときは、移動方向に対し右側に強風最大が集中
移動速度がシアより小さいときは、全方位に強風最大出現の可能性がある。
2008年ミャンマーに被害を与えたサイクロンは、移動方向の右側(シアの
左側)に最大強風域が存在した。
(文:八木 健太郎)
日本気象予報士会東京支部 第45回会合