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私は釣りが好きで、良く海に出かけるのですが、朝早くおきて高速を飛ばして現地に言ってみると、 予報とは異なり波が高くて釣船が出せないということで、悔しい思いをしたことがしばしばあります。 そこで、波浪の予測値と実際の観測地のズレがどの程度なのか?が興味深い点です。
4、5月の関東地方で高気圧に覆われているときに地上ではかなり強い風を感じました。そういうとき は海上はどうなっているのだろう?と疑問を感じます。勉強会では、低気圧や台風の通過に伴った波浪 予想が多いように思いす。高気圧が勉強会の題材になりますでしょうか?
風浪とうねりの識別についての目視識別が難しく、さらにそれを「これはうねりではなく、風浪」と 他の人に説明するのが難しく思います。
うねりが小さくとも、風が強く、いわゆる三角波が立ち始めると「ウサギが跳ねる」とか言って 船長さんは、出船するのを断念するように思います。三角波というこはどういうふうに発生する のでしょうか?
GPVデータを利用して、ある海岸の波高を予想する場合、格子点情報からその地点の波高に変換 する方法を教えて下さい。
気象庁の波浪予測は、数値モデル(たぶん全球モデル)で海上風を予測しそれから波浪をスペクトル 法で予測しているものと理解しています。その他に、気圧傾度から海上風を予測しこれからSMB図 やスペクトル法等で沖波を予測する方法もあります。数値波浪予想の波高と気圧傾度からの波高の精 度は如何でしょうか。
波浪の予測値と実際の観測値のずれの問題ですが、大変重要な問題です。
まず、波浪の数値計算されたGPVは、ほとんど実況値が反映されていません。これは、地点数が少な い、地域の代表性が少ないなどの理由ですが、そのため若干(2,30cm)のずれは出てしまうことが あります。先日の講習会でも話しましたが、有義波という概念が統計量で、半分から2倍程度の幅を 持つくらいのものですから、この程度はやむをえないということもできます。
さて、茨城や千葉ですが、この辺では、局所的な風浪に加えて、遠くからのうねりを考慮しないとい けません。うねりの推算は、その前の風浪が十分精度良く推算されていることが前提条件になります。 (実はこれが難しいのです)当日の予想図みでなく(これからうねりとしてくるであろう)前日の高 波のピーク値の検証をされることをお勧めします。
風浪のほうは、極端なことをいえば、風が正しければ推算はSMBの表などから可能です。両者をあわせ
た合成波高をより正確にするためには、うねりのほうが左右するといえ
ます。
ただし、釣り船などは、比較的小型船舶ですので、これだけとはいえません。局所的に流れと相互作 用して波が高いとか、地形的な要因も考慮する必要があります。実際船が小さいですとこういう要因 も重要ですので、船頭さんは大事をとって出ないこともままあります。
また、テレビの波浪予報ですが、県単位の沿岸に対してはこうが○mといった大雑把なものですから、 これから向かう港付近ではどれくらいの風がどういう方向に吹いているか、うねりは入ってきやすい かなどを、ご自分で判断されたほうがよいかと思います。ただし、操船の権限と責任は船頭さんにあ りますので、船が出る出ないの最終判断はやっぱり船頭さんの決定となりますが・・・。
ご質問の高気圧時の波浪に関してですが、先日の勉強会でもお話したとおり風が強ければ、波は立 ちます。一般的には、高気圧時に覆われますと、気圧傾度が緩むために風速は弱くなります。 (理論的にも、風速が大きくならないことがいえます)一方低気圧の場合にはそういう制限がなく、 発達しだいでいくらでも風速は強まります。
したがって、解析の題材としてはどうしても低気圧や台風になるのですが、風が強ければ、高気圧 (あるいは晴天という意味でしょうか?)でも波は発達します。ご質問の4,5月とは冬型の崩れかけ た場合のことだと思いますが、このような場合は気圧傾度が混んでいるでしょうから、雨が降らずと もしっかりと波は立つものと考えていただいて結構です。参考までに、海上は陸上より表面の摩擦 が小さくなるために、1,2割風速が大きくなります。
なお、波浪の発達には風は重要ですが雨は関係ありません。
陸上では雨量は重要な予想項目ですが、海上(船上)では海上風の方を注目します。
航海中は、陸上のように雨天中止とはなりえませんし・・・。
ちなみに、日本は周りを海に囲まれつつも、雨に対する関心が強いのは、基本的に農耕民族だから (北欧など航海系の民族は風に対する意識が強い)という意見もあります。
風浪とうねりの識別ですが、なかなかなれないと難しいのは事実です。特に目視の場合は、経験者 から違いを示してもらいながら、自ら判別経験をつんでいく必要があります。 (もちろんあやふやな説明では聞いていても釈然としないのでさらに難しくなります)
ですが、一般的な識別方法として
1.風向を確認してください。一般に風浪は風上からしか来ません。それ以外の場合はうねりと思っ ていただいてかまいません。まれに同方向の場合がありますがこの場合は周期で判断するしかありま せん。ただし真風向です。慣れないと動いている船上では視風向で判断してしまいがちです。
2.波の識別は上述のとおり波向きでまず判断したほうがわかりやすいです。その場合、高いところ から全体前な場を見て走行(山のライン)を見てください。波高は低いほうがよいですが。目先の波 を見ていると、重なり合いや波頭の砕波などで、見かけ上識別がさらに難しくなりますので、ご注意 ください。
3.背景知識も重要です。前日どこの波が高かったのかを把握しておくことで、うねりが来るべき方 向を大体押さえられます。あるいは、何もないところから架空のうねりをとるという間違いを防ぐ効 果もあります。
三角波とは、本来は、いくつかの方向から波が押し寄せてきて砕けたりする状態を言います。操船上 の話ですが、波の来る方向に船首を立てていれば、結構船は大丈夫です。普通は左前から波を受ける ようにします。(実は私もボート免許持ってますので・・・。)うねりは単一の方からきますし、波 高が大きくても波長も長くなりますから、船の動きもゆっくりしているし対応可能となります。風浪 の場合はそうはいきません。そもそも風が強くて波が崩れやすい(この場合は波の運動量が激力とな って船にぶつかります)ので、転覆の危険が高まります。さらに、波長は短く変動が激しいので操船 (舵取り)が大変になります。別方向のうねりがあったりすると船はさらに複雑な動きをします。流 れもそういう効果を生じることがありますが、一般的には波が短く高まります。
以上のように、波高だけでなく、風浪とうねりの状況それぞれを判断して対応することが必要になり ます。大変なのは風浪と言い切ってもいいことはいいのですが…。
波浪のGPVから特定の地点の波浪を予測する方法ですが、本格的にしようと思えば結構大変ですので、 基本的な方法をのべるにととめさせていただきます。
1.波の来る方向で一番近いGPVをとります。(逆では波の推算はできません)
2.GPVの位置と目的地点の間に陸地とか遮蔽がないか確認します。
なければOK。あった場合は、そのふさぐ割合と、波がcosの2乗の分布で広がることを利用して (割合は以前の説明資料につけてます)、波がどの程度さえぎられるかを求めます。
3.沿岸近くに入ってきたら、浅海効果が出るかでないかを、海底地形図で調べます。 (大雑把にいって水深50m以上あればあまり考慮しなくてかまいません。海水浴場などではほと んど水深どおりの波に変わります。)波高も若干変化します。(変化の割合の表も、説明資料に つけてあります。)
気圧傾度からの波高とGPVの波高のどちらがいいかという問題ですが、結構複雑な問題です。
一般的に全球モデルなどで、格子間隔がそこそこ(気象モデルと同等以上)であればGPV優勢です。 非常に局地の予想をする場合は傾度風のほうがよい場合が出てきます。すなわち、求めているスケ ールとモデルの風の表現能力との兼ね合いでGPV優勢とは一概に言えません。もちろん、モデルの表 現揚力で十分であれば、細かい物理過程の入っているGPVのほうがよくなります。そのほか、利用で きるモデルGPVの時間間隔とかも絡んできます。
92,3年ころに佐藤清富さんがモデルGPVを用いた波浪推算と沿岸波浪計の比較を行っています。 (測候時報か研究時報に掲載されてます。)そのときは、モデルの風にしても格段にはよくなりませ んでした。じつは、イニシャルの風が弱かったのです。