Meteorological Visual Presentation

ドボラック法による台風解析の試行  
 
Return to Top page   Originated: 2005-08/29, Last Updated: 2005-10/03

ドボラック法を用いて台風の強度を解析します。 気象衛星画像を見て、ドボラック(Dvorak) 法で言うところのMET数およびPT数を求め、 次にCI数を決定し、CI数の換算表から、台風の強度(最大風速&中心気圧)を解析します。 なお、後半に、考察事項を記載します。 ・解析の時点は、気象庁が気象衛星画像を公表した直後にリアルタイムに行う場合、と  台風一過後アーカイブしておいた画像で事後解析する場合とがあります。 ・なお、気象衛星画像を数多く見ることにより、台風の雲域と強度の関係をある程度まで、  知ることが出来るようになりますが、更には、自分の強度解析がどの程度のものか、  気象庁発表の強度と比較してみる楽しみがあります。 ・解析に際しては、このようなモデルを想定しています。 
★解析対象とした台風:    1.T0511(MAWAR:バラ[マレーシア]) (2005年08月20日発生、09月05日事後解析した。)   2.T0512 事後解析未定。   3.T0513(TALIM:鋭い刃先[フィリピン]) (2005年08月27日発生〜09月02日解析終了。)   4.T0514(NABI:ちょう(蝶) [韓国]) (2005年08月29日発生〜09月08日解析終了。)   5.T0515(KHANUN:果物の名前、バラミツ [タイ] ) (2005年09月07日発生〜09月15日解析終了。)   6.T0516(VICENTE:女性名称 [米国] ) (2005年09月16日発生〜09月19日解析終了。)   7.T0517(SAOLA:動物の名前 [ベトナム] ) (2005年09月21日発生〜09月27日解析終了。)   8.T0518 DAMREY 事後解析予定。   9.T0519(Longwang :龍の王 [中国] ) (2005年09月26日発生〜10月03日解析終了。)   こちらは、解析の過程で得た台風のLifecycleと雲画像の対応 及びJMAのHPから引用させて頂いた台風経路 です。
★解析(=CI数を求める)手順等 1.台風になりそうな前からTDの雲画像を眺めておく(アーカイブしておく)。   (私は、IR画像をみて、風速17.2m/s 以上になったことを確認する手段を    持たないので、気象庁の台風発表を絶えず注意しておき、台風発生時点の画像や強度の    情報をアーカイブしておく。及び、USのNational Hurricane Center のINVEST    情報も参考になるので眺めておく。) 2.台風発生時点のCI数は、通常CI=2.0或いはこの数値の前後である。   気象庁発表の最大風速と中心気圧から、CI数をCI数の「換算表」から逆に求めることとする。   このとき、本HPでは、最大風速を基準として、CI数を定めることにする。   (気圧よりも、風速の方が信頼性が高いと思われるので。) 3.台風として発表された時点で、その1日前の状態をPT雲パターンから決定し、   そのPT数を「一番最初のMET数」とする(なお、1.0日前の時点を、MET=1.0 とするのが原則である)。   即ち、台風発生とされた1.0日前を(さかのぼって)解析スタート時点とする。   このHPにおいて、画像のアーカイブが無い場合は、半日前の画像からスタートする   こともあり、この場合の発達の程度の数値は、按分する。 4.MET数は、標準的な発達では、1日につき、1.0増加するが、増減幅は±1.5 である。   (特に、外周直径の増減、スパイラルの有無(及び長さ、巻き数、スパイタル中のCb雲の存在)、    中心付近の雲頂高度の増減、濃密な雲域の拡大縮小、が発達衰弱の判断のポイントとなる。    但し、以上は大分「主観的」である。ほかにも判断のポイントがあるかも知れない。    詳細は、下記テキスト等を参照。    (なおNHCでは、客観的判断にすべくODTと言う手法を開発している。後述)    雲が無定形に広がっていて、次第に、正回転を始めたときは、TDの卵の時期である。    濃密な雲域が薄くなってきたときは、衰弱傾向にある。    NHCのMulti画像も大変参考になる。) 5.台風の中心位置は、IRやVISでは、雲の回転状況やスパイラルから   曲率中心を目算で求める。眼が形成されていれば、眼を中心と考える。 6.眼が形成された場合、DT数は少なくともDT=4.0 でなければならない。   そこでMET数も、MET=4.0以上であることを確認する。   自分の推定値が、MET=4.0以下の場合は、雲画像の見方を誤っていた可能性がある。 7.台風が、陸地に上陸した場合は、ドボラック法の採用は困難となるので、   上陸以降の強度推定は、通常(筆者は)この時点で終了する。台風が陸地から海洋上に   抜け出した場合は、地上観測を参考にして、強度の解析を再開することもある。 ★解析の前提: 1.雲パターンの特徴が明瞭であっても、DT数の解析は行わない(自宅のPCでは困難なため)。 2.最終T数に対する拘束条件(通称、しばり?)は、適用しない。 3.PT数決定において、パターン階調のハッチ部分が「"W"以下の温度であるか否か」   の判定は行わないが、台風が発達傾向のときは、「以下」とみなして、温度補正として   「PT+0.5」とする。衰弱傾向のときは、温度補正は行わないものとした。 4.MET→PT雲パターンのテーブルにおいて、PT6.0以上の場合の雲パターンの掲載が無いが、   これは、PT6.0以上になると、眼パターンがはっきりしているので、DT法で解析する。   これは、かなり正確に出来るとのことです。しかし、このHPでは採用しない(出来ない)。 5.地上観測値が得られる場合は、その観測値にあわせるようその時々のCI数等をAdjustする。 6.T数=1.0は、TS以上に発達する約1.5日前のもっとも弱いT数とされています。 なお、上述の前提(特にDT法を採用できないこと)により、正確性が減じます。筆者が解析 するCI数は、おそらく実際の地上観測値や気象庁の解析とは、1.0 程度異なるかも知れません。 その他注意事項:   ・毎時の画像を連続的に観察し、「発達傾向、衰弱傾向」の「心象」を得ておくことが    大事なようです。発達と衰弱の判断を誤ると、気象庁発表の値と大きくズレてしまう    ことがあります。    台風画像に慣れるためには、いろんな台風のライフサイクルの画像をよく見ることである。    すべてを網羅したものではないが、この数週間の間に発生した台風4種の画像をまとめました。   ・台風が、陸上に上陸 landfall したときの強度推定は、地上観測に任せるべきである。    ドボラック法は、地上観測が不可能な海洋上において、意味があります。   ・雲画像の面積が拡大しても、必ずしも、強度増加と判断できないことも    あるようなので、注意(熟練?)を要す。 ・雲域が衰弱傾向にあるときは、注意を要する。このときは、T数の減少よりも    タイムラグを設けてCI数を減少させる必要がある(経験的、統計的観点より)。 更に其の他:   ・台風発生とする風速 17.2m/s はいかにして特定するのだろうか? QuickScatか?   ・US−NavyのWeb siteでは、詳細は分かりませんが、「INVEST」の表示で    ハリケーンや台風の「候補」を常にモニターしているようです。 筆者にとっては、初めてのことなので、解析ステップ等において、方法等まちがって理解 しているかも知れません。ともかく、失敗してモトモト。上記の前提と手順で強度を解析 してみます。 ★ 2005年8月下旬から9月下旬にかけて、太平洋西部にて誕生した台風8例をchase しました。以下は、気づいた事項です。(0926記) ■ 「台風の眼」が形成される時点の遅速に関しての考察   ほぼ同時的に誕生したT0517 Saola とT0518 Damrey のライフサイクルを比較してみるとき、 T0517の眼は、誕生してまもなく明瞭になったが、T0518 の方は、「3日遅れ」で眼が出来た。 先ず、共通して言えることは、「眼の形成」のためには、渦巻きの回転が必要であること。 逆に言うならば、赤道付近の積乱雲群は、対流現象は盛んで、雲が無定形に広がるが、 全体としては、ほとんど回転せず(組織化されず、と換言してもよい)「眼」が形成されない。 T0518の眼の形成が「3日遅れ」となった原因は、それぞれの進行した経路および海水面の 温度の違いによるものと考えます。とりわけ、緯度の相違(コリオリ力の大小)が渦巻きの形成、 したがって、眼の形成時点の遅速につながったものと推定します。 ■ 北上スピードと台風の発達の程度 この状況が示唆するところのものは(まだ断定的にはいえないが)、急速に北上する 台風と、北上せず西進する台風とでは、発達の仕方(即ち雲画像での見かけ上の形の変化)が 異なることである。 また急速に北上しても眼が形成されない台風もある→T0512(T0511と一時的に併進・北上した)。 これは、渦全体の規模・供給されるエネルギー総量の大小によるのではないかと推定するが、 推定の域を出ない。 ■ 衰弱期の台風の眼の位置と雲域の関係 台風は衰弱期に入ると、雲は上層の偏西風に流され、渦の中心軸からはなれ、先行して北東進 する場合が多い。雲域の中心と地上の最低気圧を示す中心とは数百km以上はなれることもある。 この時期の台風の構造に関しては、2005年10月02日、日本気象予報士会神奈川支部主催の 「第3回ウィンドプロファイラー勉強会」で話する予定です。 ■ 台風を動かす力と運動 低緯度で発生した台風が何故、北上するか、西進するかの議論には理解しがたいものが多いが、 断片的理解ではあるが次のことは言えるであろう: 1.低緯度にあっては、貿易風が西向きの力を与える。 2.低緯度から中緯度にかけては太平洋高気圧から吹きだす縁辺流が、西向き、北向き、東向き   のいずれかの方向の力を与える。 3.転向点付近からは、偏西風が東〜北東方向の力を与える。 4.台風自体は一つのおおきな対流現象であると考えられるが、この対流は、周りの大気を吸い込み、   上層で発散する。このとき、この対流現象は、自分の重心を駆動する力を生じることはないもの   と考えられる。 5.台風を巨大質量を有する物体と考え、その重心は上記の力を得て、「慣性」を持って運動する、   と考える。このとき、台風は、一旦動き出したら、容易にとまらない。進行右側に重心がずれて   いく、と考えられる。 ■ 擬似射流現象 台風のライフサイクルの発達期、最盛期においては(発達初期や衰弱期には見受けられないが)、 最上層における気流の発散状況を見ると、広がりの先端にやや細い弧状かつ線状の雲がしばしば 見受けられる。→T0919-092909jstの眼から東側500Km付近の線状のやや顕著な雲の帯に注目 これは、水理学で言うところの「射流」に引き続く「跳水」現象に類似しているように考えられる。 この線状の部分は(先端付近の雲は)上昇しているものと考える。理由は、輝度温度が低く、すなわち、 上昇し温度低下となった。そして白く写っていると考えます。そして、やがて下降し、終局的には消えて 見えなくなる、と考えます。 一つの研究課題となるかも知れない。 以上は、ドボラック法で言うところの標準的な発達、衰弱と言う「ものの見方」を覆すものではない。
・各種のLINKおよび参考資料です。 用語の定義(米国版) 番号と名称 Numbering & Naming Convention(Section: 3.3.2 etc...)   CI数はこちらに掲載しておきます。 T数と雲の形状(気象学会、夏季大学テキストから引用)   JMA-HP 記載の台風名称です。 National Hirricane Center-HP 記載のTCの名称です。 Archived Sat. Imagery of US Tropical Cyclone Forecasters' Reference Guide Saffir-Simpson Scale   台風に関する参考資料としては、下記資料が手ごろなものです。   日本気象学会、1999年8月第33回夏期大学テキスト「新しい気象学」台風の理解はどこまで進んだか   日本気象学会、2005年8月第39回夏期大学テキスト「新しい気象学」台風・集中豪雨   日本気象学会関西支部、2005年8月第27回夏期大学テキスト「台風」   そして、ODT:Objective Dvorak Technique(*) は、改良されたドボラック法に関しての大変参考になる文献です。
(*)同文献から先頭付近を抜粋し、以下転載します。 This modified version, the Objective Dvorak Technique (ODT), is applicable to tropical cyclones which have attained tropical storm or hurricane strength. The performance of the ODT is evaluated on cases from the 1995 and 1996 Atlantic hurricane seasons. Reconnaissance aircraft measurements of minimum surface pressure are used to validate the satellite-based estimates. Statistical analysis indicates the technique to be competitive with, and in some cases superior to the Dvorak-based intensity estimates produced operationally by satellite analysts from tropical analysis centers. Further analysis reveals situations where the algorithm needs improvement, and directions for future research and modifications are suggested.
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