Last updated: 2004-3/17

カルマンフィルター(KLM)について

◆因果関係の有無に応じた予測方式:

  因果関係がわかっている場合の予測方式は、例えば現在の数値予報モデル
が挙げられ、その出力は、GPVで与えられる。一方、因果関係が不明な
場合の予測方式の一つとして「回帰分析」による方法がある。

 この回帰とは、簡単に言うならば現象の予想はある一次式でおこなって
見よう、とする方式で、PPMも、従来のMOSも、現在のKLMも
すべて回帰式を用いている。この回帰式の構成要素である変数(例えば、
気圧、温度、上昇流速度等)は相互に独立である必要がある。相互依存
関係があると、誤差が大きく出るといわれている。なお、回帰分析は、
典型的な統計的手法で、式の構造は、原因(説明変数)と結果(目的変数)
から構成され、Y=aP+bT+cω のような関係式により表現される。

◆回帰式の作成方法:

 基本的には、予想目的に最も寄与するであろう変数(例えば、P,T,ω)を
適宜ピックアップし、それらの変数にこれまた適宜係数(例えば、a,b,c)を
「重み付け」として、仮のY=aP+bT+cω のような線形式を作る。変数が複数
個あるこの様な式は、「線形重回帰式」といわれる。

この仮の式(下表左の式群)に、過去のデータを代入して、予想値YFn 、
そのときの実況値YAn 、誤差Enをn=1,2,3,4,,,nのすべてについて求める。
(下表参照)。
線形式
予測 実況
誤差
 aP1+ bT1+ cω1
YF1   YA1 
E1=YF1-YA1
 aP2+ bT2+ cω2
YF2   YA2 
E2=YF2-YA2
 aP3+ bT3+ cω3
YF3   YA3 
E3=YF3-YA3
 aP4+ bT4+ cω4
YF4   YA4 
E4=YF4-YA4
 ・・・   
・・・  
・・・ 
 aPn+ bTn+ cωn
YFn   YAn 
En=YFn-YAn
全ての誤差E1,E2,E3,,,,Enの二乗の和が最小になるように、最小二乗法で係数 a、b、cを決定し、仮の式の係数を数値であらわす。この様にして回帰式が 決定され、例えば、Y=5.0P+12.5T-0.3ω のような「予測式」が完成する。 この式のP、T、ω、に観測値などを代入すれば、予想値が一つ求められる。 なお、係数a、b、cを決定するとき、P、T、ωに実況値(観測値or解析値)を 用いる場合をPPM方式、数値予報の結果を用いる場合をMOS方式及び KLM方式という。 ◆日常の運用:  次に、完成した予測式の日常の運用は、予測式に数値予報結果(予測因子) を代入して、予想値を得る。予想値と実況値との差が誤差となる。 MOSでは、誤差の有無に関わらず完成した予測式の係数は変更されない。 しかし、KLMでは、誤差が生じた場合は、その誤差を最小にする様に完成 した式の係数が修正される。 予報の都度修正されるので、「逐次(ちくじ)最適化」される、といわれる。 KLM方式は「現象追随性」が良い所以である。 ◆誤差の処理:  KLMによる予想値が出力されるごとに、実況値と比較され、次の予想処理 のために、予測式の係数が[誤差が最も少なくなるように]修正される。 この様にKLMは(NRNも同様であるが)予測式の結果を見てから、 予測式、即ち予測の論理を軌道修正する。即ち、予測式という「系」の応答と しての出力から系の入力を推定する。この方法を「逆解析」と言う。 この逆解析において注意すべき点は、急激な気象変化があるときは、現象追随 のあまり「修正のし過ぎ」の可能性があることである。 ◆カルマンフィルターの気象への適用例:   ・ 6時間降水確率ガイダンス(PoP6)   ・ 3時間地域平均降水量ガイダンス(MRR3)   ・ 最高気温・最低気温ガイダンス(Tmax、Tmin)   ・ 3時間気温ガイダンス(T3)   ・ 3時間風向風速ガイダンス(V3) ◆カルマンフィルターのその他の適用例:  カルマンフィルターは、気象のみならず工学的に用いられている予測手法で ある。例えば、飛行機の操縦において、飛行高度を目的変数とし、昇降蛇の 操作量を入力変数とし、時々刻々の高度の制御を行なうこと等。 ◆カルマンフィルターの気象への適用の妥当性。  カルマンフィルターは、現象に対する追随性がよい所にその特徴がある。 上記の飛行機の高度制御などは、その典型的な例である、と考えられる。 このような理解の下、気象の予報にカルマンフィルターを適用するについて、 予想対象時刻が目先の、ごく短時間先であるならば、追随性の利点が十分に 発揮されるであろう、と考えられる。しかし、何時間も経過したその先の 現象を予測する手法としては、現象が安定していれば、当たるであろうが、 現象が急変するような場合は、対応しきれない、と考えられる。一旦対応 してしまうと、修正のしすぎが生じかねない、と考えられる。 KLM作成者は、ここにおいて、日夜苦労するところとなるようである。                             佐藤 記 Return to Home Page  Refer to (KLM, NRN)